『アラゴン』──ヴェネチアの悲劇 4)「廃墟で叫ぶ詩」

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4)「廃墟で叫ぶ詩」
 ところで、ヴェネチアにおけるアラゴンとナンシーの離別劇には、もうひとつほかの一幕があった。ヴェネチア滞在中、ナンシーは黒人のピアニスト、ヘンリ・クロウダーと恋に落ちた。ヘンリはこの町に巡業中のジャズ楽団にぞくしていた。ナンシーはじぶんの欲望を抑えるような女ではなかった。それに、アラゴンにたいしてほとんど慎重にふるまうこともなかった。それは彼女の自由にぞくする問題だった。しかしアラゴンはそのような自由を認められる男でなかった。そこに例の小切手の事件が加わった。こうしてさらに彼は彼女にたいして平等でなくなる、不利な立場に立たされ、自由を失うことになる……。
 このときの苦しみを、アラゴンは彼女との離別の直後に書く。『大はしゃぎ』の終りの部分、「ゴビ28」「ラモ・ディ・モルチ」「廃墟で叫ぶ詩」がそれである。

  愛をふくめて すべては虚妄だ
              (「ラモ・ディ・モルチ」)
 と彼は呻き、「廃墟で叫ぶ詩」では激昂のあまり泣きわめくにいたる。         ‘

  唾を吐きかけようじゃないか
  二人して愛したものの上に
  唾を吐きかけよう 愛の上に
  乱れた二人のベッドの上に
  ぼくらの沈黙の上に 口籠ったぼくらの言葉の上に
                   (服部伸六訳『アラゴン選集』第一巻)

 こうしてヴェネチアの悲劇は終る。
 ナンシー・キュナードは一九六五年、カルチェ・ラタンのホテルで悲惨な死をとげる。『未完の物語』(一九五六年)の一部はナンシーの思い出にささげられている。
(この項おわり)

<新日本新書『アラゴン』>

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