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小さなひとつの恋物語

ここでは、「小さなひとつの恋物語」 に関する記事を紹介しています。
小さなひとつの恋物語

むかしむかし 娘がひとり
涼しい眼と 熱い頬をしていた
めぐり会って わたしは愛した
小さな ひとつの恋物語

すいかずらが はしばみの幹に
絡みついて 抱きあうように
二人は きみとわたしとなり
他者をみいだした二人となり

涼しい眼も 炎と燃えて
われを失い またみいだして
きみなしでは わたしもなかった
わたしなしでは きみもなかった

弾けば ひびき鳴るウィオラだった
弦(いと)にふれて わたしも震えた
わたしは初めて春を知った
わたしたちはもう離れなかった

きみは太陽の娘だった
わたしの闇をはらいのけた
絶望をうたっていたわたしは
希望の歌い手となった いまは

バラも病んで老いて地に落ちる
みんなもう むかしばなしになる
みんな消えさる 霧のように
夢のなかで書いた詩のように

顫えた二人のよろこびも
二人で泣いたくるしみをも
時は消しさって跡かたもない
忘れさられて何も残らない

だが いまもなお わたしはあの
むかしの娘が 忘れられない
きみと過した あの春の日の
酔い心地から いまも醒めない

いまだに きみと 別れられずに
別れを惜しんでも 惜しみきれずに
きみを恋うて わたしはうたう
きみの眼と頬とを 風にうたう

むかしむかし 娘がひとり
涼しい眼と 熱い頬をしていた
めぐり会って わたしは愛した
小さな ひとつの恋物語

       一九九六年五月
                     (『稜線』60 秋)
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