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フイ・カーン詩集『東海の潮』あとがき(6)老いの高さをうたう

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<老いの高さをうたう>

 わたしは宇宙を歌う 人間を歌う
        (「年の始めの詩」)
 フイ・カーンは、小宇宙から大宇宙まで、日常から歴史までを、素朴にしかし知性をもって歌っている。そのことによって、かれは宇宙的(コスミック)な大きさを獲得すると同時に、普遍を手にしている。
 ここには、この詩人が到達した老いの高みの清澄(セレンテ)がある。

 友らよ わたしの糸はすでに伸びた
 軽やかに 細く 強く
 もう どんな虫にも悔恨にも蝕まれない
 もう どんな裏切りにも脅かされない
            (「蚕は死ぬまで」)

 詩人は老いのおとろえを嘆くどころか、反対に、老いの強さ・高さをうたいあげている。そこから、意味ぶかく美しい一行が紡ぎだされる。

 あけぼのの糸で わたしは目覚めを織ろう

 これは、詩の奇跡と言っていいような一行である。これは、未来を見据えた詩人の精神の高さ、信条の美しさそのものにほかならない。

    *

 フイ・カーンの積極的で晴れやかな老年の詩はわたしを深く感動させた。ともすれば、おのれひとりの老いの苦しみにかかずらい、我を見うしないがちになるわたしを、それは力強くはげましてくれた。この詩集をわたしに訳出させたのは、この感動であり、そこからわたしははげましをうけとった。わたしは訳出に没入した、おのれの老いを忘れ、死を忘れて……

 一九九七年八月
                         大島博光

(フイ・カーン詩集『東海の潮』)
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