アフリカの詩──戦争(1)

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戦争(1)

あの日
タムタムは 鳴り止んでいた
おれには 何もわからなかった
通りでは 大人たちが
顎の下に手をやって
じっと眼を地面に落として
暗い顔で
ひそひそ声で話していた
通ってゆく車も
いつものような音を立てずに通った
おれには 何もわからなかった

夜 家に友だちがやって来たが
やっぱり 高い声で話さずに
低い声で そっと言った
「おい 戦争だとさ・・・」
おれは姉にたずねた
「戦争って 何んだい」
姉も知らなかった
姉は おふくろにたずねた
「戦争って 何あに?」
おふくろは黙りこんで
やがて言った
「戦争っていうのはなぁ
死ぬることだよ」
おれには 何もわからなかった
おれは小さくて 六つだった

それから六年後の ある日
戦争が終ったと
みんなが話していた
おれには 何もわからなかった
だが おれはうれしかった
みんなもよろこんだ
おれたちは歌った「G将軍が
百人の部下を連れて 自由を手に入れた」
学校が休みになって
校長先生が言った
「きょうは 勝利の日だ
みんなで フランス万歳を言おう」
おれには 何もわからなかった
校長先生はつづけた
「敵は敗れた
祖国は解放された
たくさんのひとが 国のために戦った
たくさんのひとが 死んだ
戦場で 戦死した
たくさんの黒人も死んだ」
おれには 何もわからなかった
だが 学校が休みになって うれしかった
おれは考えた
「なぜ 大人たちは戦ったんだろう
なぜ 死んだんだろう
なぜ 戦争が起こるんだろう?・・・」

村じゅうが お祭りだった
みんなが歌をうたって 練り歩いていた
村長が 鉄砲を数発ぶっ放した
それが 祝いの合図だった
家では 飲んだり食べたりした
戦争に行きもしないのに
みんなが戦争の思い出話をしていた
おれには 何もわからなかった
フランス軍の魔法使いのような司令官
G将軍の話が出た
ヒットラーの話も出た
ルクレルクの話も出た
ほかの名前も飛び出した
イタリィ軍は ぶっつぶれたそうだ
おれたちは 何か砂糖のはいったものを飲まされた
それはいったいどういう訳だろう?
おれには 何もわからなかった
だが おれはうれしかった
おれは 砂糖水を飲んだ
「また戦争が起きて 終ったら
おれたちは 砂糖水が飲めるのかなぁ?」
従兄弟(いとこ)が言った
眼鏡をかけた小父(おぢ)さんが
いとこの頬に 平手打ちをくらわした
「ちび よく聞けよ
戦争がどんなものか 知らねえくせに
おまえは 戦争がしてえのか・・・
戦争っていうのはなぁ
人間が けだもののようになって
怖ろしい本能をむき出しにすることなんだ
罪もない貧乏人たちが
ほかの罪もない貧乏人たちと戦い合って
死んでゆくことなんだ
戦争ってのは
空きっ腹をかかえて 惨めなもんだ
大人たちは 名誉を重んじて
死んでゆく
女どもは 亭主を失くし
おふくろは 息子を失くす
おまえの兄のジケも戦死したんだ
戦争ってのは こういうもんだ
これ以外のものではないので」
そこで おれは自問した
それが戦争だったら
いったい なぜ 戦争をやったんだろう
なぜ 黒人も戦争に行ったんだろう
どこに 黒人の祖国があったんだろう
・・・第一線に立つという名誉のほか
黒人には なんの得にもならなかったのに
おれには 何もわからなかった

タムタムは また鳴り始めた
だが 以前ほどすばらしくはなかった
力強くもなかった
タムタムのすばらしい打ち手はもういなかった
みんな戦争に出て行って
戦争で死んでしまったのだ
きょうもまた おれはつぶやく
戦争って 何だろう?
そして 暗い気持ちで自分に言うのだ
「眼鏡の小父さんの言ったのは
まちがってはいなかった」


(自筆原稿)
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