世界の共産党員物語 パブロ・ネルーダ(中)

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世界の共産党員物語

──パブロ・ネルーダ(中)


大いなる歌        大島博光(詩人・フランス文学者)

●党の隊列へ

 一九四三年の秋、ネルーダはメキシコからチリへ帰ると、革命運動に参加します。チリじゅうをまわって、坑夫や農民や船員たちに語りかけ、詩を朗読したのです。こうして一九四五年三月、ネルーダは共産党公認候補として出馬し、上院議員に当選し、七月共産党に入党します。彼は、のちにこの時代のことをつぎのように書いています。
 「わたしは長いこと、いりくんだ言葉の迷路をさまよい、審美眼をやしない、探求をくりかえすきびしい勉強をくぐりぬけて、やっと人民の詩人になった。こういうわたしに与えられたいちばんすばらしい賞はつぎのようなものだ。──ひとりの男がロタの炭坑、あるいは硝石坑や銅坑の奥から上がってくる。もっと正確にいえば、地獄から抜けだしてくる。骨の折れる仕事で顔はゆがみ、眼はほこりで赤く血走っている。男はざらざらした手をわたしに差しだして言う。《おら、もうずっと前からあんたを知っていただよ、兄弟!》わたしの生涯のなかの、こういう素朴な瞬間こそ、わたしのすばらしい賞なのだ………これこそがわたしの月桂冠なのである。──一九四五年七月十五日、わたしはチリ共産党に入党した。」(『回想録』)
 この労働者の握手と挨拶ほどに、ネルーダをよろこばせたものはなかったのです。
 チリは銅、硝石、マンガンなどの重要資源のゆたかな国です。第一次大戦後、アメリカ帝国主義はこの豊かな資源にたいして支配権をふるうようになります。時の大統領ビデーラも民主主義擁護を公約しながら、やがてアメリカ帝国主義に屈服して祖国の利益と人民を売り渡してしまいます。
 一九四八年一月、ネルーダは上院でビデーラを痛烈に攻撃し告発します。それにたいしてビデーラは、逮捕令状と投獄をもって答えます。ネルーダは地下にもぐらざるをえなくなります。

 あの暗い日日 わたしは歩きつづけた
 身をやつし 姿を変えて
 わたしは警察に追われるお尋ね者
 わたしは町まちをよぎり
 森を抜け
 戸口から戸口へと
 ひとの手から手へと 渡り歩いた
 夜はつらいものだ だが人びとは
 兄弟の合図を送ってくれた……
 (『大いなる歌』──「お尋ね者」)
ネルーダとデリア・デル・カリル

●南米諸国人民へのよびかけ

 このように「兄弟の合図」と隠れ家はネルーダの行くさきざきで彼を待っていたのです。この地下生活のなかで、彼は詩集『大いなる歌』を書きつづけます。それは、雪の野のあばら家で、アンデスのきこり小屋で、バルパライソの貧しい水夫の家で書かれたのです。
 こうして彪大な詩集『大いなる歌』は一九五〇年に刊行されます。この詩集にはアメリカ大陸の大自然の地理、動物、植物がうたわれ、南アメリカ諸国と諸国人民のいりくんだ民族の歴史、征服者、侵略者どもに反抗してたたかった戦士たちや革命家たちの英雄像がうたいこめられています。この詩集はまさに新大陸のエンサイクロペデイア(百科全書)であり、その宇宙創成史(コスモロロジー)です。そしていちばんすばらしい点は、いまなおアメリカ帝国主義にあやつられた軍事政権、ファシズム体制に抑圧され、搾取されている南アメリカ諸国人民にたいして、この詩集が独立と解放の道に立ち上がるように呼びかけ、はげましていることです。そこにこそネルーダの意図もあったのです。
 『大いなる歌』のなかの「マチュ・ピチュの頂き」は、そういうネルーダの呼びかけを集約的に示しています。マチュ・ピチュというのはペルーにあるインカ帝国の大遺跡のあるところです。この山の上の石の城塞は、スペイン侵略者によってペルーのクスコが征服された後、不屈なインカの一党がたてこもったところだと言われています。そこに眠っている人民に呼びかけるというかたちで、ネルーダは現在と未来の南アメリカ諸国の人民に呼びかけているのです。

 兄弟よ 立ち上って
 わたしといっしょによみがえろう!
 地の底から わたしをよく見てくれ
 静まり返った農夫よ 織工よ 羊飼いよ
 組んだ足場に挑んだ 煉瓦工よ
 アンデスの涙を運んだ者よ
 この新しい生活のコップに 注(つ)いでくれ
 大地に埋められた きみたちの古い苦しみを
 きみたちの血を 傷痕(きずあと)を
 いく世紀ものあいだ 傷口にめりこんだ鞭(むち)を
 きらめく血まみれの斧(おの)を──
 わたしにくれ 闘争を 銑を 火山を
 わたしの血の叫びに わたしの声に答えてくれ
 (新日本文庫『ネルーダ最後の詩集』)

●わたしの党に

 「大いなる歌」が刊行されると大きな反響をよび、ネルーダにはレーニン国際平和賞が与えられます。とりわけそのなかの「きこりよ めざめよ」は評判となりました。「きこり」というのは貧農の子として生まれたエイブラハム・リンカーンを指すと同時に、アメリカ人民を指しているのです。この長詩は、平和への賛歌であると同時に、世界の憲兵とうぬぼれて世界の人民に暴虐な戦争をしかけているアメリカ帝国主義に手きびしい警告を投げつけています。

 だが北アメリカよ もしもおまえが
 ごろつきどもに銃をもたせて
 この国境をぶち壊そうとするなら
 シカゴの牛殺しどもを連れてきて
 おれたちの愛する音楽や 秩序を
 支配しょうとするなら
 おれたちは石のあいだ
 大気のなかから飛び出して
 おまえに噛みついてやる
 畑のウネから躍り出て
 種蒔く手で ぶちのめしてやる
 地獄の火でおまえを焼いてやる……

 アメリカ帝国主義の侵略をあばいた詩人は、エイブラハム・リンカーンの輝かしい民主主義的伝統にめざめて立ち上がるようにアメリカ人民によびかけるのです。

 エイプラハムよ やって来い
 やってきて イリノイの
 黄金(こがね)と緑の大地を よみがえらせろ
 新しい奴隷主義者にむかって
 奴隷をむちうつ鞭にむかって
 毒をふりまく印刷所にむかって
 白人の若者も 黒人の若者も
 歌いながら微笑みながら、進め
 憎しみをあふりたてるものに抗し
 かれらの血で肥る商人に抗して
 勝利をめざして 堂堂と進め
 きこりよ 眠りをさませ
     (『きこりよめざめよ』)

 『大いなる歌』にはまた「わたしの党に」という詩があります。彼はここで、共産党員になったおかげで、自分が古い人間から新しい人間にどのように変ったか、どのようにこの世界を見るすべを学んだか、どのように敵とたたかうすべを学んだかを語っています。

   わたしの党に

 見知らぬひとと 兄弟になった

 あなたのおかげで わたしは
 生れ変ったように祖国をとり戻した
 あなたは わたしに与えてくれた
 孤独なひとの 知らない自由を

 あなたは わたしをまっすぐにしてくれた
 まっすぐに伸びる 木のように

 あなたのおかげで わたしは学んだ
 兄弟たちの 堅い寝床で眠るすべを

 あなたはわたしを現実の上に据え
 しっかりと 岩のうえに立つように

 あなたのおかげで わたしは悪党どもの敵となり
 怒り狂う人たちをまもる壁となった

 あなたはわたしを うち滅ばされぬものにしてくれた
 なぜならあなたの中で、わたしはもはや自分自身で終ることはないのだから
 (角川書店『ネルーダ詩集』166ページ)

<『月間学習』1987年10月号>
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