サラエボの嘆き

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 サラエボの嘆き
               アブダラ・シドラン 大島博光訳


聞いてくだされ
惑星サラエボが
どのように息をしているか

聞いてくだされ、
若い娘がどう泣いているか
「死神よ わたしをつかまえないで!」

どれほど わたしたちは
泣きながら 捧げたことか
平和への熱い祈りを

若い娘たちの涙を 死神はとり合わない
人びとの祈りに 死神は知らん振り
聞いてくだされ
惑星サラエボが
どのように息をしているか

よく見てくだされ
惑星サラエボが
どのように花咲いているか!

聞いてくだされ
その身のなかを
無情に流れる血を!

そこで 男たちは歩いて
歯医者へゆく

人びとは そこで 歩いて
子どもたちを床屋へ連れてゆく

そこで 人びとは歩いて
新聞を買いにゆく

あちらの男は ご覧くだされ
鳩を飼っている!

あちらの男は 見られよ
パズルなしには生きられない

ご覧くだされ
人びとは 仕事に追われて
行ったり来たり

そのひとたちの
なんと一夜で 年老いたこと!

そのひとたちみんなを そんなに急に
美しくしたのは 何んだろう?

惑星サラエボで
わたしはひとりの男を見た
かれはパイプを吸って 急いていた

わたしは見た
惑星サラエボで
食べながら泣いているひとりの男を!

わたしはひとりの小さな娘を見た
惑星サラエボで
消えてない公園で 彼女は
消えてない花々を摘んでいる!

死神は大鎌をもった仕事熱心な草刈り人だ
若い娘たちの涙もむだだ
平和への祈りも
むなしい

──戦争でもどこにも花々がある
だが それは戦争ではなく
「原初の闘い」なのだ
闇の時代から「最後の審判」まで
敵対する二つの原理の闘いなのだ
善の原理と
悪の原理との!

善と悪との闘いは
けっして止むことがない!

この世界から
善は消えさるのか?

若い娘は
大鎌をもった死神の手に
くちづけするのか?

泣く彼女の声を聞かれよ
「死神よ わたしをつかまえないで!」

泣くな 若い娘よ
泣くな 美しいわが子よ

けっして けっして
善と悪との闘いが
止むことはないだろう

 訳注 アブダラ・シドランは一九四四年にサラエボに生まれた。詩人・作家・劇作家で多くの著書がある。
 以上のテクストは「Europe」誌一九九四年五月号に掲載されたものから訳出した。

(『民主文学』1996年7月号)

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