〈わだつみの声〉への挽歌

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〈わだつみの声〉への挽歌
                         大島博光

君は行き 私は残る
荒れ狂う 嵐のなか
燃え狂う 戦火のなか
君は歌い 私はどもる

ふるさとを見つめる君の眼に
パゴダの塔は乳房のよう
南十字星は希望のよう
未来を見つめる君の眼に

ざんごうのなかで密林のなかで
君は歌う 雲雀の歌を
野獣への呪いの歌を
怒りわななく胸と手で

嵐はもぎとり撒きちらす
緑の若芽を若葉らを
うら若き眼と胸ぐらを
いまわしい炎はなめつくす

もう君の髪はなびかない
野獣の手に刈りとられ
熱い砂と血にまみれ
五月の風にもそよがない

密林に憎しみの詩を
君はなおも歌いつづける
風は枝に呻めきつづける
空しい空しい君の死を

南から燕はもどるが
流された血は還らない
撃たれた雲雀は還らない
ふるさとに春はもどるが

私はむなしく嘆くまい
奪いさられた竪琴を
嵐に歌ったその声を
私は決して忘れまい

炎に叫んだ君の詩は
私の絶望を希望に変える
私の涙を怒りに変える
悲しい悲しい君の死は

密林の草に空しく映える
君の血の色のあざやかさ
流された涙の清らかさ
愛の知恵は私をきたえる

何ものなのか 誰なのか
君を死へ遣(や)ったのは
君の血を吸ったのは
神なのか 狼なのか

いまこそ見つめよその神を
その目隠しをかなぐり捨て
そのまやかしをひき裂いて
見つめよ見つめよ狼を

君の死のあがないとては
君の同胞の飢えと怒り
私たちの手の新しき鎖
君の血へのつぐないとては

君の血のまだ乾かぬうち
早くも蝮は首をもたげる
狼はまた血に吠える
私の涙のまだ乾かぬうち

祖国の岸べに潮騒は泣く
流された血を想いおこせ
失われた青春を奪いかえせ
潮風に帆布もふるえわななく

南風は私の耳にささやく
生き残ったものはたたかえ
たたかって死者をとむらえと
そのはげましは私の胸を熱く灼く

春 雲雀の歌はよみがえる
君の叫びはこだまを覚まし
こだまは血を呼びさまし
旗は嵐にひるがえる

友よ聞け このどよもしを
おなじ涙に湧きあがり
おなじ怒りに燃えあがり
空をふるわす声の のろしを

愛と血は結びつなぐ
おなじ希いに民族を
見知らぬ君と私とを
愛と詩は結びつなぐ

いまこそ私は歌い継ぐ
君のとぎれた歌声に
君の見つめた未来の方に
私は立ち上り歌いゆく

私は行く私は行く
君をよみがえらせるたたかいに
私をよみがえらせる歌ゆえに
野火のように私は行く

異国の岸べによろめきさまよう
眠れぬ君のたましいは── 
さまようをやめ 私の唇は
奪われた祖国に怒り歌う

南の空をはるか望んで
君の墓場は遠き原
君の墓には赤き薔薇
君の血と頬をしのんで

さらば友よ なお歌え
黙しがたきくちびるで
愛と怒りを 地の果てで
ビルマの風よ なお歌え

さらば友よ 私の挽歌は
いまたたかいの歌でおわる
そうしてたたかいは始まる
平和と独立へのたたかいは!

(『わが祖国の詩』、『わだつみの声新聞』1950年10月10日、『大島博光全詩集』)

*当初の題は「《断崖の声》への鎮魂歌──戦没学生武井脩の霊へ そうして彼とおなじ運命をわかったすべてのひとびとの霊へ」となっており、武井脩への挽歌だった。

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