ひろしまのおとめたちの歌

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 ひろしまのおとめたちの歌
                           大島博光

  ひろしまよ 世界に告げるがよい
  死んだものはこのようにして死に
  生き残ったものはこのように生きていると
       ──艾 青(アイ チン)

消えはしない 消えさりはしない
おとめのわたしらがくぐりぬけてきた
あの原子地獄の傷あと焼けあとは
わたしらの骨のなか血のなかに
からみつき むしばむ放射能は
いま 十年すぎた きょうの日も

腰にまきつけた包帯をほどいて
黄いろいうみをふきとるとき
そこには軽石のようなあらわな骨
あさ 鏡のなかをのぞきみるとき
そこに映るのは おとめではなく
消えさることのない地獄の悪夢

「水を水を」の声がいまもきこえる
太田川の河原にみどりはよみがえり
かわ風に春の香りのただよう夜も
わたしらの抱くのはくらやみばかり
わたしらの身にまとわりつくのは
ただ おののきと死の影ばかり

わたしらのこころにもひなげしがあり
ひそかな期待にふるえる胸もあるのに
やけどの頬は ほほえんではくれない
ふく風になびく くろ髪もあるのに
ささやきをかわし 手を組みあって
五月の森へゆく こいびともない

わたしらにも すこやかなこころと
花びらのようなくちびるもあったのに
おとめたちを鬼あざみにかえる
そんな権利が だれにあろう
心を裂かれ うまずめにされるような
わたしらに どんな罪とががあろう

わたしらも この胸にかい抱きたい
ねじれた腕にも 乳のみごを
わたしらもまた 撫でてもやりたい
ひきつった手でさえ やわらかな髪を
だが ひとなみのしあわせさえも
わたしらにはただ むなしいねがい

わたしらの友は ひとりまたひとり
いま 十年すぎた きょうの日も
黒い血をはき もだえ 死んでゆく
わたしらの姉から生まれた鬼子たち
すこやかに見えた みどりごさえ
赤い血のうすれ 衰え なえてゆく

たとえ わたしらが幹のなかから
枯れはててゆく木にも似ていようと
わたしらは 死ぬにも死ねない
わたしらが死んだら誰が知らせよう
八月六日のきのこ雲が落として行った
この怖ろしい原子の影を 烙印を

炎の風にやかれた肌でわたしらは叫ぶ
もう原子地獄は わたしらかぎりに
もうきのこ雲は ひろしまかぎりに
そうしていま わたしらは見る
死の太陽を こばむひとたちの
ふりあげた 林のような手を腕を

       (一九五七年八月)

<『大島博光全詩集』>
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