パブロ・ネルーダ 「原子へのオード」 Ode to the Atom by PABLO NERUDA

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原子へのオード


原子へのオード


原子へのオード




原子へのオード


原子へのオード


(1976年 掲載誌不詳 特集「チリ反革命から三年」)

*ネルーダの「原子へのオード」は抄訳が新書「パブロ・ネルーダ」に載っているのみでしたが、全訳が1976年に発表されていました(おそらく『詩人会議』)。

 原子へのオード
                    パブロ・ネルーダ 大島博光訳

ちっぽけな
ちっぽけな
星よ
おまえは 空恐ろしい
悪魔のような火を
鉱石のなかに隠して
おまえは 永遠に
地に埋もれている
かに見えた
だが ある日、
おまえの ちっぽけな
扉を
叩くものがいた
人間だった
一撃のもとに
おまえは 鎖から
解き放たれた

おまえは 世界を見た
おまえは白日のもとに
姿を現わし
町まちを
歩きまわった
偉大なおまえの光は
生活を照らすようになった
おまえは
電気の美しさをもった
怖るべき果実だった
おまえは 夏の
灼熱の炎を
燃えたたせるようになった
それから
虎の眼鏡や
鎧で
武装し
格子縞のシャツや
硫黄くさいひげや
やまあらしの尻尾で 武装した
軍人がやってきて
おまえをそそのかした
軍人は おまえに言った

眠むれ
身をまるめろ
原子よ おまえは
ギリシャの神にも似ている
パリの春の
お針女にも似ている
さあ わしの爪のしたに
横になれ
この箱のなかに はいれ
それから
軍人は
おまえをチョッキのなかに入れた
まるで おまえが
アメリカ製の
ひと粒の丸薬でしかなかったかのように
そしてかれは世界じゅうを旅行し
おまえが ヒロシマに
落っこちるにまかせた

わたしたちは眼を覚ました

あけぼのが
焼きつくされた
鳥という鳥が
黒焦げになって 落ちた
棺桶の
匂いが
墓穴の
臭気が
空間をつらぬいて走った
恐ろしくも
超人的な
懲罰の形象(かたち)が立ち昇った
血なまぐさいキノコよ 円屋根よ
煙よ
地獄の
剣よ
大気が燃えながら 吹きあがった
死が うちよせる波のように
ひろがり
子供と
眠っていた母親を
襲い
川の漁師と
魚たちを襲い
技師と
かれの建築を襲い
すべてが灰となり
その灰は ふれるものを腐蝕した
ひとを殺す
大気よ

都市(まち)の 最後の一隅まで
ぼろぼろに崩れた
都市(まち)は 突如として倒れ
ひっくり返えり
腐った
人びとは
またたくまに 癩になった
人びとが 子供たちの手を
握った
すると 子供たちの小さな手が抜けて
そのまま 大人の手のなかに残っていた
このように 原子よ
おまえの火が眠っていた
おまえの隠れ家から
秘密のなかから
石の壁から
おまえは引きずり出された
眼もくらむ火花よ
すさまじい嵐のような光よ
おまえは
生きとし生けるものをうちほろぼし
海のなか
大気のなか
砂のなか
港の
最後の片隅にいた
遠い存在(いのち)まで追いつめ
穀物を
一掃し
芽をみな殺しにし
花びらを焼き殺した
原子よ ある連中は
諸国の国民を
全滅させるために
おまえを使うことにした
愛を黒い膿泡に変え
折り重なった人びとを焼きころし
血を根絶やしにするために
おまえを使うことにしたのだ
とてつもない気違い火花よ

おまえの寝床のなかにもどってゆけ
おまえの鉱脈のなかに身を隠し
ふたたび 盲目(めくら)の石に還(かえ)って
悪党どもの言うことを聞くな
おまえは 生命や農業と
協力するのだ
動力にとって代って
エネルギーを高め
地球を豊かにするのだ
おまえにはもう
かくす秘密もなくなり
おまえは あの怖るべき
仮面もつけずに
人びとのあいだを歩きまわり
足どりを早めたり
収獲の歩幅を
伸ばしたり
山をひき裂き
河をまっすぐに直して
原子よ おまえは
世界をゆたかにし
世界の
コップを
溢れさせろ
喜びの速さで
ぶどうの房の平和の方に
向きを変え
自然の家に
ふたたびもどって
われわれの役に立つのだ
そして おまえの仮面の
死の灰のかわりに
怒ったおまえが解き放つ
地獄のかわりの
怖るべき光の
脅(おど)しのかわりに
おまえのその突然の激昂を
おれたちの穀類のために
解き放して
人びとのあいだに平和をうち建てるために
おまえの磁気をとき放て
こうして眼もくらむおまえの光は
地獄ではなくて
幸福となり
朝の希望となり
地球への寄与となるだろう


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