アラゴン 「いかさまのペてん師ども」

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いかさまのペてん師ども 「グレヴァン蝋人形館」より
                        アラゴン  訳 大島博光

きみ 知ってるかい あのいかさまのペてん師を
ゆがめた口もとに いつも 安葉巻をくわえこみ
まんじゅうづらした 老いぼれの恐怖政治家を
淫売屋の牛太郎で 活動家たちを売り渡す闇商人を

その腐敗ぶりを おれたちはとっくりと見てきた
みずからあふりたてた 戦火のなかで 踊り狂い   
天理にそむいて 災禍(わざわい)をばらまいた 立役者ども
人類の血にまみれた 屠殺屋ども 偽善者ども

とっくりと見てきた 死刑執行人(ひとごろし)どもとその斧を
わが庭の若草を食い荒した 「野蛮人」どもの馬を
とっくりと見てきた 卑怯者どものなれの果てを
ならずものどもの 眼もくらむような 昇天を

客間(サロン)では 外国の軍人どもをよんで どんちゃん騒ぎ
退役軍人めが禄をはみ 百姓たちに演説をぶつ
腐った奴らの闇夜には 目新しいものは何もない
土螢が星にのし上ろうと 一か八かの大ばくち

大方 死刑囚には ラム酒をちょっぴり飲ませるもの
占領下のパリで ルイ十八世は橋を一つ救いだし
こんどはそこに ローマ王がもどってくる(注1)
いつもおんなじ太鼓が 傭兵行進曲をうち鳴らす

ティエールとタレーランとは 五十歩百歩(注2、3)
カイゼルどもと プロシャっぽとは 同じ穴のむじな
ナチが フランスを殺(ばら)そうと 切り刻もうと
映画館で ラヴァルは ぺタンの脇で笑っている(注4,5)

操り人形ども おまえらの顔の色は塗り変えられぬ
牢獄の壁に 書きこまれた言葉は 書き変えられぬ

マケールやマスカリーユをまねる カーボン紙ども(注6,7)
その白いネクタイは いつも ご時世向きだ

あの頃は 挽(ひ)きの悪い粉が幅(はば)をきかしていた
おれたちは だんだん 闇の中へと降りて行った
大物とは ひとを絞めあげる 名人のこと
掠めとり 身ぐるみ剥いで 丸裸かにするのだ

あの猿のような醜男は 下司で 下劣な周旋屋
利権を漁って なんでもかんでも 取引きする
嘘八百を書きならべて 甘い汁を吸い上げる
あわよくば 棺桶の釘にまで 手を出しかねぬ

敵の手に 恐れ臆面もなく 忠勤はげむ
あの売国博士の その言い草をきくがいい
人民に吐き棄てられた このだみ声の卑怯者は
人民の怨嗟の声をきいて なんと悦に入るのだ

いったい この悪党は どうしようというのか
運命の馬を引き止めようと 夢みているのか
相棒はついいま その馬にふみつぶされたばかり
奴もまた その蹄(ひづめ)にかけられる薪の束にすぎぬ

やつはただ 終幕をおくらせようと一生懸命
もう余命いくばくもない男の哀れなていたらく
いやもっと悪い 権力もいまや役には立たぬ
悪事の筋書どおり やつはただ急(せ)きたてられる

とうとう 懲罰のくだる時がやってきた
つらい弁明地獄に落ちこんでもがき苦しみ
いが栗頭でのたうち廻われ 栗がこぼれ落ちるわ
さあ 七転八倒 おまえの苦しむ時がやってきた

おまえの脳味噌を抉(えぐ)りとろうと待ちかまえてるのは
鷲か 鷲頭馬身の怪物か それとも四一六年前
あのマキャベリを喰ってしまった 大蟹なのだ(注8)
あとには 大きな口開けた髑髏(しゃれこうべ)と亡霊が残るばかり

ひるも暗い森の奥に 腹まですっぽり埋められて
おまえも あのマザランのように食い荒されるのだ
老いさらばえた足の先から 腰の骨の髄まで
顔もない姐虫どもに からみつかれて喰われるのだ

或いは待ってるのは ルイ十一世と同じ運命
永遠に 針の山を ぐるぐる駆けめぐるのだ
よるひる鳴りわたる鐘の音(ね)に 耳は破れんばかり
我先に飛びかかろうと 獅子と狼が身構えている

ラヴァルよ あざみのような詩人や取り巻き連が
いくら おまえの倣慢な下僕ぶりをほめそやそうと
おまえは あのダンテの地獄の舞踏会にもはいれぬ
おまえはあまりに悪(あく)どすぎた 悪どすぎた

モントワールの男よ 狂い死にが おまえの落ちだ(注9)
やっと悪酔いからさめた この腐った老いぼれめ
伝説も歴史も おまえなどを歓迎するものか
どこででも みんなに嫌われた ひぜんかきの犬め

墓穴から逃れようと いくらあがいてもむだだ
いまこそ おのれの地獄の苦(にが)さを 思い知るのだ
思い出すがいい コレットがおまえを狙撃した日を(注10)
あの日 人民が 声をあげて よろこんだのを

そうだ幾月も おまえは死にざまを考えた
だが 吸血鬼よ おまえにもっと悪いことには
死刑執行人は 黙りこんでいることもできるし
おまえの下手人すら 姿かたちももたぬだろう


*1 ローマ王 ナポレオン一世の息子。
*2 ティエール(一七九七一一八七七) 一八七一年、普仏戦争でフランスの首相として講和をむすび、プロシャ軍の援助をうけて、パリ・コミューンを弾圧する。
*3 タレーラン(一七五四─一八三三) ナポレオン帝政下の外相であったが、皇帝にそむいて不興を買う。のちルイ十八世の王制復帰に尽力し外相となり、ウィーン会議でらつ腕をふるう。
*4 ラヴァル(一八八三−一九四五) 一九四二年、ヴィシー政府の首相。対独協力政策をとり、死刑を宣告され銃殺される。
*5 ベタン(一八五六−一九五一) 第一次世界大戦の英雄としてフランス国民の信望を集めたが、ヴィシー政府の首席として、ナチスのかいらいとなる。
*6 マケール 劇「アドレの宿星」の登場人物で、詐欺師の典型。ドーミエは、これを悪徳政治家、実業家の典型として描いた。
*7 マスカリーユ 十七・八世紀の喜劇に登場する、奸知にたけたべてん師の下僕。
*8 マキャベリは、一五二七年に死んだ。それから四一六年後の一九四三年にこの詩は書かれた。
*9 モントワールの男 一九四〇年十月、ベタンはモントワールでヒットラーと会見し、そこで対独協力政策が決められる。
*10 ポール・コレット 一九四一年八月、レジスタンスの活動家コレットは、ヴェルサイユでラヴァルを狙撃した。

(『赤旗』1976.4.4)
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