町からの手紙

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 町からの手紙
                    ジャン・ナム

おお この紫色のインキの かしいだ字の手紙
黄いろくなった 罫(けい)もない紙……
故郷の消印の押してある封筒
妻のやさしい手のぬくみが感じられるようだ

おまえの手紙は 雨期のさなかにとどいたよ
春の大陽が 空に顔をのぞかせたばかりなのに
解放区には おやみなく雨が降りつづいている
おまえは故郷で暮らしている おれの思いははてしない

……こどもは元気です わたしも変りありません
あなたは森の中で 何も心配しないでください
裏の畑の かぼちゃが大きくなって
あなたの帰えるのを待っています
かぼちゃをとって おつゆにしています
坊やは あなたがいないので
夜もむずかって よく眠らないのです
坊やは泣き虫 わたしもいっしょに泣き虫
こどもにきせる古着をおくってください
わたしも暖かくなって助かります

わたしは毎日 荷物運びをつづけています
近所のおばさんたちが 子どものおもりをしてくれます
だれも頼まないのにみんなわたしを助けてくれます
わたしには そのわけがよくわかります……
あなたにもわかるでしょう?
何度も 家が雨で水びたしになりました
わらぶき屋根がもういたんでいるのです
枕もふとんもなくて わたしは寒くてふるえています
でもわたしはあんまり嘆きません
あなたは 遠いそちらで わたしなんかより
もっともっと苦労しているんですもの

あなたのゴム林や山の方も雨つづきでしょう
ああ 長い夜よるの寒さ 歯ががたがた鳴る寒さ
あなたが思いきり働けるようにわたしもがんばります
あなたの汗のおかげでわたしたちはたべられるのです
いまこの瞬間にも ゴムの木のそばで
あなたは明日のために樹脂をとっているのです
樹脂は流れ しかもあなたは戦いをやめない
あなたのそばには たくさんの同志たちが……

こまかな字でつづった手紙に 額をよせて
夜っぴて すすり泣きがおれの胸にこみあげる
おれは毎晩 戸板のかげのおまえの姿を思い描き
おまえの髪にそよぐ風にきき入るのだ

からっぽの小さな家 市場への荷運び
やせた両の腕 坊主
日にやけ雨にうたれて おまえの花よめ衣裳も色あせた
おまえの夢も消えはてて 一杯のめししか残っていない

だれがおまえを苦しめ 子どもたちを苦しめているのか
だれのために おれたちは遠く離れ離れにされているのか
怒りの涙が流れて 血にかわる
そのたけり狂った怒涛(どとう)は あす土手を押し流すのだ

妻よ おまえにも見えるだろう
もう 陽がのぼりはじめているぞ
長い苦しい夜にも 終わりがくるのだ
おれはおれの確信をおまえに送る
おれたちはもう すべての人たちを
おれたちの味方にひきつけているではないか

*ジャン・ナム 南ベトナム解放民族戦線解放文芸協会中央委員。小説も書く。南ベトナムでもっとも活躍している詩人。

『ベトナム詩集』飯塚書店 1968年)

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