奇 跡

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奇跡



奇跡



 アイン・トー 女流詩人。一九二一年、北ベトナムの小さな町、ハイデュオンに生まれる。彼女は革命前に、ロマンチックな傾向をもった詩集『田舎の風景』を出版した。
 革命後、彼女は長編詩『ビュラン村の女』を出し、さいきん『鳩のつばさで』(一九六〇年)を出した。

(『ベトナム詩集』飯塚書店 1968年)
 奇 跡
                  アイン・トー

わたしは 古いパゴダの前に立っていた
三つの入口のある門のまえに
長い年月に洗われて 門はもう白くなっていた
水のない水盤のなかで
箱庭の丘が 乾いていた
椿樹の根が 陽ざしの中に 垂れさがっていた
ここでは 過去も深い静けさの中にじっと立ちどまっているかのようだ
とつぜん 門番が錠をはずして門をあけた
門があくと 中に二台の飛行機の残骸が見えるにまかせていた
尾のひからびた二匹の白魚のように
それは 古い いかめしいパゴダをいっぱいにふさいでいた

ベトナムの こんな古いパゴダのなかに
アメリカの飛行機をとじこめるというような奇跡を
いったい どんな力がやってのけたのか
わたしはまた 何百年もへたこの建物と
台座の上の 慈悲深い微笑を浮かべた
不感無覚の仏像とをじっと見た
すずかけの木の茂みが ベランダの前に赤い照り返えしを投げていた
いつかの夜 雨のように降った爆弾の火のように
わたしは見た 海の方へ流れている河を
沖へ網を投げにいくたくさんの漁船を
つながっているざんごうを 海べの部落を
うっそうと茂ったポプラ並木の下の戦場を……

わたしは見た
銃を肩に つむぎ車をまわしている
あの民兵の 婦人戦士を
畑の畔を越えてはみ出る さつまいもの山を
そうしてわたしは とっさに理解した
柳の木々の ゆらゆらゆれるかげにある
この戦う村では
古いパゴダでさえも
入口の三つある門のうしろがわに
敵がきたら ひっとらえて閉じこめてやろうと
おこたりなく準備しているのを

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