はしけをこぐ娘

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 はしけをこぐ娘
                ジャン・ナム

ま夜なか はしけが一隻 おれたちの方へやってくる
岸には暗い竹林が茂り 波は早い
はぐれ鳥が一羽 闇のなかを飛び去る
はしけは棕梠のあいまを音もたてずに進んでくる
敵の探照燈が棕梠のいただきをかすめる
銃に弾丸をこめて みんな伏せる
おれたちは流れをよぎる時をじっと待っている

はしけをこぐ娘
彼女は黒いズボンをももまでまくりあげていた
彼女が草や花でカムフラージしたおれたちの荷物をおくりとどけてくれるのだ
闇をすかして 彼女の赤い類がほの見える
ふと彼女の手にふれると
彼女のすばやい身ごなしに気づく
いっぱいつみこんだはしけの横っ腹に
波がはげしい音をたててぶつかる
はしけは揺れて 岸を離れるのに手まどる
「同志よ 何か手伝おう」
と声が言った
彼女はふり向いてへさきをうかがった
敵地区の地下組織のなかで生きている彼女は
悲しみもよろこびも心のおくにかくしていた

はしけは くらやみのふちをすべり越えた
波にぶつかり 波がくだける
櫓をこぐたびに 空と星とがゆらぐ
向う岸が近づき棕梠がおれたちを招く
おれたちの勇敢な娘は 部落の入口の方
敵の見張台をじっとうかがう
そのあいだも彼女の腕は櫓をあぎやかにあやつっている
彼女のほっそりした影絵のような姿が波を圧する
もうひと息で 向う岸につく!
ほっとしたおれたちの胸に よろこびがこみあげてくる

そのときだ 敵陣から
一斉射撃がはじまったのは
大砲がとどろく 赤い閃光があたりを走る
「じっとしていて こわがらないで……」
と彼女は言った しかもはしけは大胆に
敵陣へむかって突き進んでゆく
砲弾をものともせずに
夜空に浮いた黒い姿のすばらしさ!

「きみこっちへ来て おれたちにまかせてくれ!」
「あなたたちがしてはいけません!」
はしけはつき進む
まるで空と夜とが感動であふれんばかりだ
おれたちの心はしめつけられ 眼は怒りに燃える
敵の砲弾は川面に雨のようにぶちこまれる
おれたちの銃は おれたちの手のなかで
憎しみで焼けこげる

はしけは安全な場所につき 一本の木につながれた
おれたちは若い娘の手をながいこと振りしめて
ありがとう を言う……
明るいほほえみが彼女の顔にうかぶ
「わたしは解放青年同盟の一員です
ただ義務をはたしただけです……」
そう答えると 彼女の姿は夜のやみのなかに消えてゆく
おれたちは前進をつづけて村をよぎる
おれたちはまだ彼女のことを思いつづける
かろやかな彼女の足どりが耳をはなれない

勇敢な娘よ 勇敢の模範像よ
おれたちはきみの模範像を抱いて
つぎの戦いへとつき進んでゆくのだ

『ベトナム詩集』飯塚書店 1968年)

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