安西良子様──そら怖ろしい怪物がうごめいている

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六月三日付のお手紙拝誦 天の橋立に旅行されたよし 何よりです 天下の名所名跡を訪れるのも人生のよろこびのひとつです

考えれば考えるほど いまはそら怖ろしい怪物がうごめいていて それがいつ現実のものとなるかわからない しかもいつか現実に現実のものとなって 言語に絶する害悪災難を国と人民におしつけずにはいない そういう種類のそら怖ろしい怪物です その名は有事法制 しかもこんな怖ろしいものが みんながワールド・サッカーなどに熱狂しているどさくさにまぎれて 議会を通過するかも知れないのです
この事態にたいする詩人の任務は何か と自ら尋ねるとき このような状況を適格に詩のことばで捉えて 詩のかたちにして この怪物の正体を白日のもとにさらけ出してやらねばならないのに 自分の詩の力の弱さを感じとらずにはいられないのです。このようなときにこそ、あの不純な詩 非純粋詩 悪趣味の詩が力を発揮する時なのです だから勇気をふるって この詩にとりくまねば と自らをはげましています

 いま わが国では この国では
 そら怖ろしい怪物がうごめいている
 そら怖ろしい悪企(わるだく)みがうろついている
 
 この怪物が議会から解き放たれたら
 この国はまた軍国主義ファシズム
 ぺてん師どもによる無血クーデター

 この怪物が野に解き放たれれば
 あのむかしの真昼の暗黒がやってくる
 深夜の通行人の時代がやってくる

 また口には猿ぐつわ 目には目隠し
 夜ひる犬どもが街をうろつきまわる
 叫ぶ人は引っ捕らえられぶち込まれる

 そして人民はまた奴隷の身に落とされる
 そして人民はまた羊の群と化して
 地獄のような奈落へと追い落とされる・・・

とにかくわたしたちは大きな歴史の曲がり角に立っているわけです どのみちよい方向には曲がらないでしょう それでも 新聞記事でしか報道されないような状況を なんとか詩のかたちに捉えてゆくほかはありません それがレアリスト詩人の任務です ゴーシュロンのいう不純な詩 非純粋詩の出番です こんな危険を前にして なお小さな自我の内面などを歌ってすましているとすれば それはなんと人間離れのした 非人間的なことでしょう・・・
 お元気を祈ります
  六月十日─十二日
                    大島博光
安西良子様


*安西良子さんは晩年の博光と書簡によって交流した詩の愛好家。その往復書簡は100通を超えるという(重田暁輝氏<大島博光と雑誌「同時代」>『狼煙』74号)。
この手紙は2002年、小泉内閣による有事法制制定の動きの際に書かれたと見られます。この年、ワールドカップが日本と韓国で共同開催。この手紙の鳴らす警鐘は、今、安倍政権が強行しようとしている集団的自衛権行使容認の解釈改憲の動きを射程に収めています。時あたかもワールドカップブラジル大会を目前にして、本当に大事なことを忘れさせようとしている様なテレビの報道ぶりも。


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