一八三四年に描かれたドラクロワの「アルジェの女たち」(ルーヴル美術館所蔵。モンペリエ美術館にもう一つのヴァリアントがある)と、ピカソがそこから引きだしたヴァリエーション、たとえばジャックリーヌが主要人物となっている最後のヴァリエーションと比べてみれば、イメージの構造そのものがまったく違っていることがわかる。ここでは造形的な置き換えも、じっさいのヴァリエーションも問題とならない。光とヴァルール、色彩、空間の扱い方、人物の数や配置、どれひとつとっても似ていない。ドラクロワには裸(あら)わな乳房は描かれていないし、画面の右側の地面にねている女もいない。一方、ピカソの画面には、右側に立っている青い衣裳をつけた黒人の召使いはいないし、斜めに巻きあげられたカーテンもない。ただ、画面の右側の下にある絨毯の平面と背景の長方形は残っている。(この長方形は、ドラクロワでは扉であるが、ピカソでは鏡になっている。)またハレムで退屈している女たちの豊満な肉体や衣裳の細部はピカソでも描かれている。──これらのヴァリエーションを描くにあたって、ピカソはドラクロワの絵の複製さえも使わずに、ただ記憶だけで描いたといわれる。したがって、それはドラクロワにたいするピカソの記憶による敬意(オマージュ)だったばかりでなく、主題における出会いでもあったのである。
(つづく)
<新日本新書『ピカソ』>
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