山の村

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 山の村
             大島博光

山の村に親類があって
ぼくは子どもの頃よく遊びに行った
ぼくの家は里のほうにあったので
山の村はめずらしくておもしろかった

山の村は 西向きの山すそから
やまの斜面をはいあがるようにして
上のほうにも 横っちょのほうにも
遠い奥のほうにも散らばっていた

でこぼこ石の坂道を登ってゆくと
水車が苔(こけ)をつけたまんまとまっていて
谷川のすんだ水だけが 泡立ちながら
その音をたてて流れていた

ひょいと見ると
かべ土の崩れかけた土蔵のわきに
ざくろの実が 赤くえみわれて
西日にかがいていたりした

山の桑畑の斜面のまんなかに
柿の木がいっぽん
黄いろい実をいっぱいつけて
ぽつんと 立ってもた

雪がちらほら舞ってる冬の日
みのを着たおじさんたちが そりで
切り口もあたらしい杉の木を何本も
山のほうからひきおろしてきた

狐いろの山はだのなかから
思いもかけぬ高いあたりから
炭焼きの煙が すんだ空に
白く立ちのぼっていることもあった

春祭りの頃 高いところから見おろすと
桃やあんずの花があちこちに咲いて
村は花のなかにうずまってしまい
あたたかいかげろうに煙っていた

芽ぶきはじめた雑木林のなかに
花火のひらいたようなかたちに
こぶしの木が白い花をつけるのも
たしか その頃だったろうか

すがれていた桑畑がみどりになると
どこの家でもかいこを飼いはじめました
桑畑から桑の若葉をつんできて
夜なかにも起きてかいこに桑をくれた

芋虫のように大きくなったかいこは
雨の降るような音をたてて
みんないっせいに青い桑の葉をたべた
家じゅうが蚕だらけだった

ひと月あまりものあいだ
夜のめもねずに とったまゆを
町のまゆ買いが まわってきて
安いねだんで買いたたいて行った

大きな竹かごに まゆを入れて
おじさんたちはしょいこでしょったり
荷車にのせて 村の坂道をくだって
ひろい田んぼの向うの町まではこんだ

町のまんなかの まゆ買いの店の
広くてうす暗い板のまのへやに
おじさんたちの苦労してとったまゆは
小さな雪山のように積みあげられた

ぼくは東京でくらしていて思い出すのだ
ふるさとのうつくしい風景といっしょに
一生けんめいに働いて生きている
なつかしい村のひとたちのことを

             一九六六年三月

(草稿)

*「山の村と村のひとたち」のもとの原稿になります。親類の家のあった村がどこなのか、知りたいと思いました。
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