あの子はいつ来るんだろう?  ──コミューンの前夜 (4)ビフテキ一枚のパリ

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(4)ビフテキ一枚のパリ

 ボナパルティストの一味にとって代わったブルジョア政府は、プロイセンと休戦してフランス人民に当たろうとする。この政府は、人民の熱烈な愛国心と、社会正義にたいする熱望とを怖れていた。かれらにとって、パリの勝利は、フランスの勝利となり、共和国の勝利となり、人民の勝利となることを意味していた。この反動政府は、いかなる犠牲をはらってもこれを阻止しようとする。
 九月二十日、この政府は外務大臣ジュール・ファーブルをフェリエールに派遣して、ビスマルクと会見させ、ドイツとの和平交渉を開始する。
 翌一八七一年一月、この「国防」政府は、パリの武装した労働者階級にたいする恐怖のあまり、六カ月におよぶプロシヤ軍の包囲に英雄的に耐えてきたパリを放棄して、ドイツとの恥ずべき休戦条約を決意する。これは、ブルジョアジーが、おのれの階級的利益をまもり、おのれの階級支配を確立するためには、いつでも祖国を裏切り、外敵と協調することを意味する。
(一九四〇年、第二次大戦ちゅう、フランス・ブルジョアジーの代表ベタンは、ヒトラーと協力することになる。)
               
 詩人エミール・ドルー(1)は、このようなブルジョアジーの裏切りの姿を、『ビフテキ一枚のパリ』のなかで、痛烈に風刺している。

  ブルジョアよ あしたはたらふく食えるぞ
  ビスマルクは フェリエールの城でお待ちかねだ
  パリへご入城下され というティエール(2)の言葉を
  ファーヴルは 急いで最後の条文を書きあげる
  トロシュ(3)は わけのわからぬ計画をあきらめる
  さあ ブレバン(4)よ フライパンをひっくりかえせ
  諸君(メッシュー) ビフテキ一枚とひきかえに パリが売出される

  アルザスやロレーヌが わしにとってなんになる?
  そんな処にゃ わしの土地も財産もありはしない
  プロシヤが ぶん取ろうと ぶんどるまいと
  知ったことか わしの失うものは何もない
  ストラスブールより わしの食卓の方が大事なのだ
  メッスなど うずらの手羽ひとつの値うちもないわ
  そんなものには わしの情婦さえ眼もくれぬ
  諸君(メッシュー) ビフテキ一枚で パリを明け渡そう

  気違いどもは 抗戦に立ち上れとわめきおる
  祖国を 名誉を 死守しろ とほざきおるわ
  恨(うら)みを晴らしたいのは わしのお腹(なか)の方だ
  わしの心臓は へその下に さがってしもうた
  下賤のやからが 愛国者面(づら)をして戦おうと
  敵の砲火で くたばろうと かまったことか
  わしは にんにくソースの方が 好きなんだ
  諸君(メッシュー) ビフテキ一枚で パリを明け渡そう

  またこう言う奴もいる フランスは今にも死にそうだ
  両脇腹に 外国軍が くらいついている
  ドイツの槍騎兵どもが 血まみれの長靴で
  おれたちを 奴隷のように踏んづけている と
  そんな苦(にが)い光景の好きな奴は 泣きわめくがいい
  平和が来れば そんな泣き言もお終(しま)いになる
  わしの台所には もうひときれの肉もないのだ
  諸君(メッシュー) ビフテキ一枚で パリを明け渡そう

  さあ 決(きま)った 女中(ねえや)よ おめかしするのだ
  青い客間には 新しいカーテンを張るんだ
  マノンよ おまえはオムレツを焼くのだ
  プロシヤのおかげで わしらは卵が食えるぞ

  あしたは 三人のバヴァリア人を家に招(よ)んで
  飲めや歌えや どんちゃん騒ぎと行こう
  平和万歳! 祖国なんか くそくらえだ!
  ビフテキ一枚とひきかえに パリは売られちまった

 注
 (1)エミール・ドルー──Émile Dereux 不詳。コミューンの詩人の中には、ドルーのような無名詩人が多くいる。
 (2)ティエール──ヴェルサイユ政府の首相。コミューンの圧殺者。
 (3)トロシュ──パリ防衛司令官トロシュ将軍。降伏の機会をもとめて、大砲を空に向けて射つように命令したと言われる。
 (4)ブレバン──当時パリで有名だったレストランの経営者。金持ちどもは、パリが包囲きれて、きびしい状態にあったにもかかわらず、このレストランでご馳走をたべていた。

 ブルジョア政府がドイツとの休戦交渉をつづけていたころ、パリの街々や、労働者たちのクラブではこのようなシャンソンが歌われ、小冊子に印刷されて売られていたのである。
(つづく)

<『パリ・コミューンの詩人たち』>

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