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シャヴァンヌ  3 リヨン人気質 (上)

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シャヴァンヌ  3 リヨン人気質 (上)

<美しい善きものを愛して>
 シャヴァンヌの作品に於ける美学的性格と高き社会的価値とを分析する前に、人間及び芸術家としてのシャヴァンヌを見るのがよい。両者は互ひに説明しあひ、相俟って完成するのである。
 シャヴァンヌは その血統に於いてはブルゴオニュ人であり、その教養と気質に於いてはリヨン人である。土壌豊かな田舎、広やかな葡萄畑、明るく晴れ渡った空。これらの自然から、シャヴァンヌはその強い性格、逞しい精力、快活に愉快に生きる趣味、勤勉さ等を得たのである。彼はまたその両親からみごとな体質を受け継いだ。優雅で丈高い背、広い肩、逞しい胸、すらっとした脚、廣い額と明るい眼、力強い鼻、さうして繊細な唇が軽やかに開いていた。
 シャヴァンヌは人生を愛し、女性を愛した。或る批評家が彼におもねるつもりで彼の神秘主義と純潔さとを讃美すると、彼は勢ひよく答へたものであった。『まちがへないで下さい。私は聖人ではありません。芸術に於いては、聖人をもつこともできないし、もつべきでもないです。女性や快楽や、すべて美しい善きものを愛して、芸術家は美しいものをつくればよいのです。』
 彼は強大な胃袋の持ち主で、御馳走の並んだ食卓に就くのを好んだ。フロオベルがユウゴオに就いて言った言葉はシャヴァンヌにも当てはまる。即ち『彼は一個の自然力であって、彼の血管の中には樹液が流れてゐるのだ。』
 畫家の生活に入って以来、彼は永い時間仕事をするために、食事は一日一回、夕方の七時に摂る習慣であった。彼は昼食には、アトリエにゐる時には一杯の牛乳か茶を、仕事をつづけたまま飲むだけで、外出の折には一片の麺麭を食べるだけであった。しかし、一回の晩餐は豊穣であった。彼は健康法のため、晩餐の前後には永い散歩をした。彼はまたアトリエに於いては孤独と静寂を愛したが、食事は静かなレストランで友人か弟子と共にするのを常としてゐた。彼は五十年間もモンマルトルに住んでゐたが、モンマルトルの畫家生活の風俗には少しも染まらなかった。彼は生涯のいつの時代にも、ボヘミヤンであったこともなければ、またダンディを気取ったこともなかった。遺産のおかげで、彼は惨めな青春を送らないですんだのである。さうして芸術への情熱と野心に燃えて、人生の真面目な高い理想に役立たないやうなものには眼もくれなかった。
(つづく)

<シャヴァンヌ・ノート>
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