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シャヴァンヌ  2 初期の作品 (中)

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シャヴァンヌ  2 初期の作品 (中)

<サロンからの追放>


 一八五二年から二年つづけてシャヴァンヌはサロンに落選した。このうち続いた失敗によって、彼は落胆するどころか、反対に画家としての己が思想を確立しようと決心し、ギャルリィ・ボンヌーヌウヴェルに開かれた民間の展覧会に出品した。そこには同じくサロンで落選したクゥルベも出品してゐた。観衆はシャヴァンヌの繪の前で、クゥルベの前に於けると同じやうに騒がしく、嘲笑の聲を擧げるのであった。クゥルベは凶暴で危険な狂人とされ、シャヴァンヌは静かで無害な狂人と呼ばれた。こうして、サロンからの追放は八年間続いた。その当時、同じくアカデミイの犠牲者の中には、ドラクロア、ジュル・デュプレ、バリー、トロワィヤン、テオドル・ルソー、ミレー、コロー、等がゐる。例へ、テオフィル・ゴーチェとか、テオドオル・ド・バンビィユ等の詩人がシャヴァンヌを辯護し、勇気づけたとしても大部分の芸術批評家は、激しく彼を攻撃した。
 併し、一八五七年はシャヴァンヌにとって多作の年であった。
 《聖セバスチァンの殉教》《瞑想》《村の消防夫》《エロディヤット》《瀕死者の枕頭に立てる聖カミーユ》《ジュリー》これらの種々の傾向の作品が又可也、変化に富んだ手法で描かれてゐるが、それらには、彼がルーヴルやイタリヤで学んだ巨匠たちや、彼がついた師匠たちの影響が反映してゐる。彼は、チントレットと同時にヴェロネーズを夢想し、ドラクロアと共にシェフェルを憧れてゐる。《聖セバスチァン》は、夜、森の中の空き地に連れられて来て、大木の軒に縛りつけられた。既に矢傷を追ふて、血にまみれた彼の肉体は、月明の中で悲劇的な背景をなしてゐる。五人の死刑執行人が、身を休めてゐる。一人は泉で水を飲み、他の一人は仲間と論じてゐる。《瞑想》は、夏の一夜、ビヤリッツの海辺での初見によって想を得たものであって、一人の牧師が崖の上に坐って頭を両手に抱へて瞑想に耽ってゐる。その黒い影は幻の様に空に映ってゐる。この絵は、パリー包囲の際、シャヴァンヌの手から盗み取られてしまった。《エロディヤット》に於いては、大きな階段の頂きにエロードの妻が立ってゐて、下に居る死刑執行者にバブチストの聖ヨハネを殺す合図をしてゐる。聖ヨハネは暗い教会堂下の暗い穴ぐらに閉じ込められてゐるのがみえる。《村の消防夫》は、シャヴァンヌが或る旅行中に目撃した光景を描いたものでる。遠方に見られる農家に火事が起きてゐる。人々や家畜が野を過って逃げ惑ってゐる。警鐘の音を聞いて、消防夫が駈けつけ、或る者はポンプを押し、或る者は梯子や綱やバケツを持ってゐる。この画面には厳しい写実と幻想との奇妙な混合が見られる。青い仕事着を着て頭に鉄兜を被った農夫や、法衣を着た牧師の傍らに素足で破れた着物を着、とり乱した数人の女が見られる。これらの女は田舎の仕立屋から出てきたと云ふよりは寧ろ歴史画や寓意画の中に見られる女たちである。
(つづく)

<シャヴァンヌ・ノート>
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