きみのいない時間と空間のなかに

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 きみのいない時間と空間のなかに
                               大島博光

きみのいない 時間と空間のなかに
わたしはひとり あとに残された
ただ泣くために 呻めくために

ある雪の降る日 きみが長野の駅に
みずみずしい姿を 現わしたときだ
わたしたちの物語が 始まったのは

きみがこんなに早く 倒れなかったら
冬に始まった わたしたちの物語は
永遠の春の物語に なるはずだった

そのとき 雪のなかに泉をさがして
ひとり さまよっていたわたしを
きみは 春の方へ連れだしてくれた

きみは 渇いていたわたしに
無限の扉を ひらいてくれて
わたしを よみがえらせてくれた

きみのおかげで 孤独者のわたしは
ひとびとのなかの ひとりとなって
みんなといっしょに 歩くことができた

きみのおかげで この人生を
わたしは 歩きながらうたい
うたいながら 歩くことができた

もしも きみに会わなかったら
吹きつける 吹雪の野っ原で
わたしは 行き倒れていただろう

もしも きみに会わなかったら
わたしは 荒野の荒くれのように
アナーキーに 荒れていただろう

もしも きみに会わなかったら
わたしは 深いよどみのなかに
足をとられて 溺れていただろう

きみを失った 孤独なわたしは
貝殻をなくした みじめな男だ
海の音をなつかしむ すべもない

わたしが 呻めき泣くのをやめるとき
わたしが きみを歌うのをやめるとき
わたしは 生きることをもやめるのだ

きみのいない 時間と空間のなかに
わたしは生きるために きみを歌い
きみを歌うために わたしは生きる

だが澱んでこもる水は 腐る
敵を見失って おのれの弱さや
くら閻にひたるものは崩れ落ちる

わたしも 涙を火に変えよう
きみを歌うことが他者をうたい
絶望にうちかつ希望の歌となるように

わたしは 歌のしらべを変えよう
きみの生と愛を うたうことが
死にうちかつ 生の勝利の歌となるように

そうだ わたしはきみを歌って光を歌おぅ
きみはいつも ヒマワリのように
太陽の方へ 顔を向けていたのだから

<詩集『老いたるオルフェの歌』1995年>

緑地
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