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石関みち子「タチアオイ」

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 タチアオイ
                 石関みち子

警戒警報解除 の声がゆきすぎて
母が防空壕の戸を押しあけた
ワァーと外へとび出す 炎天の八月
立葵が赤くもえる

祖父母は山の知り合いへ疎開
父は熱病が癒えて戦地から戻ったばかり
昭和二十年 四月に入学した国民学校は
入学式をおえるとすぐ兵舎として接収されていた

警戒警報発令
早く早くと 防空壕へせきたてる
あ、弟がいない
母は血相変えて通りへとび出していった
焼夷弾の煙の中 弟を呼ぶ母の声が聞こえた

隣組の人に危ないからと連れてこられた母は
半狂乱になって 名を呼んでいた
──きっと何処かの防空壕に入れて貰っているだろうから
父にいわれてやっと防空壕へおりていった
広くもないその奥の 家具の問に
弟はねむつていた
母は抱きかかえて 泣いた

解除になつて 弟の手を引いて外に出る
真直ぐにたつ立葵の花びらをわって
弟の小さな鼻のあたまにくっつけた
ニワトリのトサカのようだった

(石関みち子詩集『愛の讃歌』文藝出版 2013.9)
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