民主化への流れはもはや止められない  チリ情勢について有延出氏にきく

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民主化への流れはもはや止められない
                チリ情勢について有延出氏にきく

 昨年十月の国民投票で「ノー」が勝利し、反軍政運動は大きく前進しました。今年十二月には、大統領選挙と国会議員選挙が予定されており、民主化に向けてチリはいま大きな山場を迎えています。国民投票をめぐるチリ情勢と今後の展望について、中南米研究家の有延出さんにお話を伺いました。

チリ連ニュース

 ──早速ですが、国民投票での「ノー」の勝利の意味からお話し下さい。
 有延 一口で言って、これによりチリの民主化の過程がいよいよ最終段階に入ったなという気がします。国民投票の結果によって軍政側と反軍政側の力関係は逆転したと言えるでしょう。何しろ、国民の多数はピノチェトを支持していないことがはっきり数字で示されてしまったのですから。一時的な逆流はあっても、民主化への流れはもはや誰にも止めることができないと思います。
 ──ピノチェトが自分で仕掛けた国民投票に敗れるなんて予想できなかったんですが。
 有延 当初、チリの反政府勢力の中にもそうした意見がありました。ピノチェトはすでに一年以上前から、大々的に選挙運動を開始していました。文字通りの官営の選挙運動です。何しろ国と地方の行政機関、それに陸軍を丸ごと選挙運動組織として動員し、国の予算を選挙資金として投入したんですから。また政府の統制下にあるテレビで大宣伝をくりひろげました。ですから、当初、反政府勢力の間では悲観論が強く、国民投票への参加に消極的な意見も少なからずありました。票の操作など不正への懸念も大きかったですし。しかし、チリの反政府勢力は国民投票に参加する道を選びました。それからの運動は実に見事なものでした。
 ──その一端を紹介して頂けますか。

 「ピノチェト・ノー」をもたらした運動の背景

 有延 まず、統一の実現です。ピノチェトは野党の分断を狙っていました。穏健な中道政党には活動を認めてアメを与え、他方、左翼勢力にたいしては弾圧して排除しようとしたのです。しかし、反軍政勢力はこれに乗りませんでした。昨年二月、右派から左派までの十六政党が協定を結んで、国民投票をめざして共同行動をとることになったのです。これほど幅広い統一はかつてありませんでした。そして「ノーをめざす運動本部」がチリ全土にわたって組織されました。そこで様々な党派の人から無党派の人までが、文字通りともに肩を並べて活動したのです。また、不正を許さない体制を創り出しました。投票と開票を監視する立会人をすべての投票所に配置し、開票結果はただちに中央本部に連絡する休制が組まれました。また、非常事態令や亡命者帰国禁止措置の解除がない限り国民投票は無効だと牽制し、政府から一連の自由化措置を引き出しました。
 ──テレビでの宣伝も効果が大きかったと聞いていますが。
 有延 ええ、テレビの利用を要求して、結局、賛成派、反対派に十五分ずつ無料で宣伝を行なうことを政府に認めさせたのです。もっとも、それ以外の時間はピノチェト側があいかわらず独占したままでしたが。でも、このわずか十五分がとても大きな効果を生みました。それまで決まり切ったピノチェト賛美しか聞かれなかったブラウン管から初めて、これとは違ったメッセージが豊かな色彩、親しみやすい音楽とともに流れてきたのですから。この番組の制作には知識人、芸術家、広告業界の人々が無償で協力を申し出て、毎日、創意あふれた番組が制作され、放送されました。この点については別の雑誌に詳しく書いたのでぜひそちらを読んでいただきたいと思います(「チリよ、喜びはもうすぐやってくる」『文化評論』一月号)

 年末選挙で新しい前進めざす民主勢力と混迷深める軍部

 有延 軍政支持派は敗北によって混迷状態に陥りました。まず大幅な内閣改造や軍首脳の更迭が行なわれました。さらに軍政支持勢力の内部対立が激しくなりました。極右勢力は非民主的なピノチェト憲法護持を叫んでいますが、右派の有力政党、国家革新党(RN)は軍政から距離をおき始めました。同党は憲法改正は必要だとして、反政府政党と話合いを進めています。他方、今年十二月に予定される大統領選挙をめぐっても、右派勢力の間では複数の候補者が分立している状態です。ピノチェトを次期大統領侯補として擁立しようとする声はもうほとんど聞かれません。
 ──反政府勢力の側はどうなんでしょうか。
 有延 反軍勢力は統一を引続き強固に維持しています。国民投票に向けて反政府十六政党がつくっていた「ノーをめざす政党協議体」は「民主主義をめざす政党協議会」へと名前を変え、現在、十二月の大統領選挙をめざして、統一候補の調整と統一綱領作成に向けて準備を進めています。
 ──十二月には国会議員選挙も同時に行われるそうですが。
 有延 そうです。問題なのはむしろこちらの方でしょう。政府は全選挙区で定数二名との新たな選挙制度法案を発表しています。これだと、反政府派が上院で、悪法改正に必要な三分の二を確保するのはかなり難しくなります。さらに国会議員選挙では政党間の競争になりますから、反政府諸党がどのように候補者を調整していくかという難しい問題も出てきます。
 ──その際、共産党など左翼政党は選挙に参加できるのですか。
 有延 今の憲法はマルクス主義を禁止していますから、たとえ政党登録を望んでも許可されないでしょう。また今の非民主的な政党法の下で政党登録をすることを望まない左翼政党もあります。そこで考え出されたのが、選挙に目的を限定した政党の結成です。「民主主義をめざす党」(PPD)、「社会主義左翼拡大党」(PAIS)はこうして生まれました。ともかく、どんな悪条件の下でも、これを乗り越える方法を考え出してしまう知恵には本当に感心してしまいます。
 ──最近、パラグアイで独裁者ストロスネルを倒したクーデターがありましたね。
 有延 ええ、新政権の性格はまだよく分かりませんが、選挙の実施を約束しています。これが民主的に実施されれば、南米に残る独裁政権はチリだけだということになります。ピノチェトはパラグアイに行く準備をしておけ、というのが反政府派の集会で聞かれたシュプレヒコールですが、ピノチェトは最後の盟友とともに亡命先まで失ってしまったというわけです。

 (『チリ人民連帯ニュース』34号 1989.3.20)

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