うなりをあげる海

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 うなりをあげる海

                テー・ハイン

わたしは語ろう 海がうなりをあげる国について
わたしの生まれたやさしい南ベトナムについて
何千里もとびつづけた 渡り鳥たちがきて
羽根をやすめる あたたかい巣について

大平洋岸の あの細長いみどりの地帯も
地図では 下の方の赤い一点にすぎない
ふかい青空と 白い砂と 明るい太陽の国
すべての心が 愛情にあふれている国

なんとも現実的で しかも夢にみちた国
心はなれぬ詩のような 浜べによせる波音で
子供のわたしを あやしてくれたところ
わたしが海を愛するすべを覚えたところ

わたしは語ろう あのドオンの岸べに
いまも住んでいるすべてのひとたちについて
港が 舟をかかえたように わたしをかかえてくれた
すべてのものについて 漁夫と水夫について

あの素朴で 偉大なひとびとについて
海べの岩のうえに 生活をきずき
素手で 天に挑戦している ひとたち
あの名もない 年令(とし)もわからぬひとたちについて

荒い磯波に洗われた 奴隷ぐらしの時代
党の指導のもとに 波と風をきって進み
あの革命のなかで育ったひとたちについて
海は そこに汗を流しこむひとたちのもの

抗戦の九年のあいだ 自分の赤い血を
あの大地にながしたすべてのひとたち
きょうも怒り狂った波で 泥を掃きだそうと
米軍とかいらい軍に立ち向っているひとたちについて

平和協定で 祖国を建設するために
ホーおじさんの「北部」へ行ったひとたち
協同組合の魚は 銀いろにひかり
あした 船は船首を「南部」に向けよう

このひとたちはわたしには血のつながった兄弟たちだ
わたしの詩が彼らにわたしの愛情をつたえてくれよう
わたしは語ろう 会ったこともないひとたちについて
「生れ故郷」という言葉でつながっているひとたちについて

わたしの人生は 海にむすびついている
よろこびの波の時にも 悲しみの波のときにも
おお つばめの季節の うずくような思い出よ
おお とび魚の季節の 刺すような思い出よ

わたしの魂は 風をはらんで帆とともにひらく
友よ 行こう 出かけよう はるか地平線の万へ
わたしの心は 港に錨(いかり)をおろしてきたばかり
村へかえるためにもどろう もどって行こう

ほかの味は みんなくちから消えてしまうのに
陽をあびた塩田の塩のように つよい
海の声と 生きているひとたちの声とを
わたしは どれほど 詩でうたってきたことか

わたしは語ろう 空と 流れていく雲について
ひろい野原と 仕事場と 小鳥たちについて
だがそれにもまして わたしは海をうたいたい
わたしの心のおくにひそめた 海への愛を

わたしの詩に涙にみちた詩句があるとしても
わたしの心がにぶったなどと言わないでくれ
わが祖国の半分は武装した敵と向いあっている
どこに ほほえむ力をわたしが見つけられよう?

(『ベトナム詩集』)
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