エィブラハム・イエズス・ブリトオ(人民の詩人)
パブロ・ネルーダ/大島博光訳
かれの名はイエズス・ブリトオといい イエズス・パロンといい
かれの名は 人民と呼ばれる
かれの眼は 川となり
かれの手は 根となり
いま かれのいた同じ場所に
生れる前 土から躍り出る前に
貧しい石ころたちのあいだに
かれは植え変えられるのだ
かれは 坑夫と漁師とを結びつける
結びの鳥であり
怖るべき祖国の 優しい樹皮を編む
素朴な 馬具製造人であった
祖国が 寒ければ寒いほど
祖国は かれに青く見えた
土地が 荒れていればいるほど
かれには 幻想的に見えた
かれは 飢えれば飢えるほど 歌った
かれは 葡萄(ぶどう)の蔓(つる)の竪琴と 鍵で
鉄道の世界をひらき
かれは歩いた 祖国の泡をよぎって
星ちりばめた 小さな荷物をもって
銅の木であったかれは
すべての新しい 小さなつめくさを水でうるおした
かれは敵にとって 怖るべき罪悪であり 騒乱であり
人民を守る流れの前進であった
かれの声は 犯罪の夜のなかに消えた
しゃがれた 叫び声にも似ていた
かれは 谷川のようにひびく鐘を
夜 帽子のなかに拾い集めた
ぼろぼろの袋のなかには
溢れこぼれた人民の涙を すくい集めた
かれは歩いた 水たまりのある砂利道を通って
茫茫(ぼうぼう)とした硝石の原をよぎり
沿岸地方の波うつ丘を越え
愛の歌を一節また一節とつくり
一句一句 念入りに手を入れ
自分の手の汚点(しみ)や
まちがった綴りを取りのぞいた
ブリトオよ きみは首都の城壁をくぐり
騒がしいカフェーのあいだを抜けて
まるで巡礼する木のように
きみの深い足を置く土地をもとめて歩き
ついにきみは みずから根っこになった
石ころとなり 土くれとなり ほの暗い鉱石となった
ブリトオよ きみの偉大さは
誇り高い太鼓のように
手荒に うち叩かれた
並木道と人民から成る きみの領土は
ひろびろとした 野外の王国であった
さまよう木よ きみの根は
きょうも大地の下で 声なく 歌っている
きみは きょうも さらに深く根をはり
きょうも きみは 大地と時代を抱きしめている
<『ネルーダ詩集』──大いなる歌 第二巻>
パブロ・ネルーダ/大島博光訳
かれの名はイエズス・ブリトオといい イエズス・パロンといい
かれの名は 人民と呼ばれる
かれの眼は 川となり
かれの手は 根となり
いま かれのいた同じ場所に
生れる前 土から躍り出る前に
貧しい石ころたちのあいだに
かれは植え変えられるのだ
かれは 坑夫と漁師とを結びつける
結びの鳥であり
怖るべき祖国の 優しい樹皮を編む
素朴な 馬具製造人であった
祖国が 寒ければ寒いほど
祖国は かれに青く見えた
土地が 荒れていればいるほど
かれには 幻想的に見えた
かれは 飢えれば飢えるほど 歌った
かれは 葡萄(ぶどう)の蔓(つる)の竪琴と 鍵で
鉄道の世界をひらき
かれは歩いた 祖国の泡をよぎって
星ちりばめた 小さな荷物をもって
銅の木であったかれは
すべての新しい 小さなつめくさを水でうるおした
かれは敵にとって 怖るべき罪悪であり 騒乱であり
人民を守る流れの前進であった
かれの声は 犯罪の夜のなかに消えた
しゃがれた 叫び声にも似ていた
かれは 谷川のようにひびく鐘を
夜 帽子のなかに拾い集めた
ぼろぼろの袋のなかには
溢れこぼれた人民の涙を すくい集めた
かれは歩いた 水たまりのある砂利道を通って
茫茫(ぼうぼう)とした硝石の原をよぎり
沿岸地方の波うつ丘を越え
愛の歌を一節また一節とつくり
一句一句 念入りに手を入れ
自分の手の汚点(しみ)や
まちがった綴りを取りのぞいた
ブリトオよ きみは首都の城壁をくぐり
騒がしいカフェーのあいだを抜けて
まるで巡礼する木のように
きみの深い足を置く土地をもとめて歩き
ついにきみは みずから根っこになった
石ころとなり 土くれとなり ほの暗い鉱石となった
ブリトオよ きみの偉大さは
誇り高い太鼓のように
手荒に うち叩かれた
並木道と人民から成る きみの領土は
ひろびろとした 野外の王国であった
さまよう木よ きみの根は
きょうも大地の下で 声なく 歌っている
きみは きょうも さらに深く根をはり
きょうも きみは 大地と時代を抱きしめている
<『ネルーダ詩集』──大いなる歌 第二巻>
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