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富士のうた

ここでは、「富士のうた」 に関する記事を紹介しています。
 富士のうた

わたしの ひろいもすそは
しいたけの生える 松林
牛の草かる ゆたかなかや場

わたしの ふかい茂みのなかに
小鳥たちはうたい ひなをそだて
こいびとたちは くちびるかわし

わたしのもすその ひだのなかには
汗と血でひらいた もろこし畑
火いれした 炭がまもある

わたしの 背なかをよじのぼって
ひとびとは のぼる太陽をむかえ
しあわせと 平和をいのった

海のかなたから 帰ってくるひとは
雲つく わたしのひたいをみつけて
ふるさとへの あいさつをおくった

わたしの 雪をまとうた胸には
わたしを愛して倒れた 息子たちの
いとしいこころと 骨も眠っている

季節ごとに 衣かえるわたしは
民族が 想いこめて仰いだ高み
ひとは描き ひとは歌った

しかしいま わたしの肌のうえには
ナパーム弾が 突きささり えぐりとる

いま わたしの足指のうえに
原子砲車の キャタピラがめりこむ

いま わたしの胸とふところは
よそぐにの 原爆用レーダー基地

わたしもまた 異国の兵士に
汚がされ ひき裂かれた女

この痛みうずきを わたしは
ただ こらえていなけれはならぬのか

この血ぬられた傷ぐちを だまって
ただ 見ていなければならぬのか

わたしのふみにじられた いのちのまえに
もうなんの言いわけが なりたとう

わたしは もうながいこと
火を噴くことを 忘れてきた

だがいま 雪のしたの胸にさえも
熱い火がにえくりかえる

だが わたしは見る 愛する息子たちが
わたしのひだのなかに 立ち上るのを

いまこそ わたしを描き歌っておくれ
うめき 叫んでいるわたしの姿を

いまこそ わたしの周りに手を結んでおくれ
平和なわたしを とりもどすために

(『ひとを愛するものは』、「アカハタ」1955.9.6)

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