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ネルーダ『大いなる歌』1. 地上のランプ(3)インカ

ここでは、「ネルーダ『大いなる歌』1. 地上のランプ(3)インカ」 に関する記事を紹介しています。
 インカ

 アメリカ・インディオ文明のなかで、古代ペルーのインカ帝国の文明ほどに魅惑的で謎にみたものはない。当時、周期的に飢饉にみまわれる世界にあって、インカ帝国は、農業の発展、収穫物の貯蔵、消費の調節、広大な流通網の整備などによって、飢饉を知らない国であったという。

 南部は すばらしい黄金色だった
 天の戸口にある
 マチュ・ピチュの孤独な高みは
 油と歌声に みちみちていた
 人間は 高い山の
 大きな鳥たちの巣をこわし
 頂きにひらいた新しい土地で
 農民は とうもろこしの実をもいだ
 霜焼けのした指で

 ここに歌われている「人間」──インカ帝国の名もない「人間」は、神官でもなければ戦士でもなく、素朴な農民である。マチュ・ピチュのような山の高みで、とうもろこしを育て、「霜焼けの指」でとりいれをした農民である。

 山のテラスの段段畑のうえに
 高地のとうもろこしが芽を出した
 そして 火山の道を
 壷や神神が往き来した

 「火山の道」──インカ帝国の道路網は一万六千キロメートルにわたったといわれる。それはたんに火山の山腹を縫っていただけでなく、それ自体が火山の溶岩のように、山項から台地や谷間へと蛇行していた。とうもろこしを入れた重い壺を背負った運搬人たちが蟻の行列のようにつづいた。この行列こそが、飢餓の問題を解決したインカの栄光を物語っていたのだ……しかしインカの牧歌のなかにも、苦しみにみちた秘密がかくされていた。長詩『マチュ・ピチュの高み』がその手がかりとなる。

(『パブロ・ネルーダ』──『大いなる歌』)
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