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Cisseの バカ、バカ!

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バカ、バカ、バカ、
Cisseの バカ、バカ!
プシの眼をこんなに迄してしまって・・・。
今度だけはヘルダアリンによって甦らせて下さったからかんべんしますけど、
もう、あんな意地悪繰り返したら、プシは独りで獏になっちゃふ。

でも、Cisse! スキイなんか又して いいのかしら?
風邪など、又ひかないでゐて下さいね。
Cisseの体はプシの体なんですから・・・。

Cisse! ほんとは今日、がっかりしてしまった!
あれ以来の憂鬱が、今日は又ひどく、昼頃には、苦しい程の悲しさに堪へかねて、防空頭巾のおふとんに、今迄のCisseのお手紙全部と、Cisseのご本とを、包み、しっかり胸に抱きかかへて、エトナの浮ぶ さびしい病院の裏の荒野の河岸ヘゆきました。
かれくさが さやさや息づいて、早春の陽のやわらかさがプシの背中を撫でてゆくと、もうプシは崖上の荒野のまん中に坐りこんで、萌黄色の視界の中に 又泣き出してしまふのでした。そしたら、プシの前に、春風の中からのエトナが うるみ乍ら滲みだし、あのCisseの子守歌をうたひはじめ、又、榛名の山も かげろふの中から泳ぎ出して、その山腹にしるされたプシたちの足あとを蒼く蒼く甦らせるのでした。
利根の水音も、もう春の水音でしたのに・・・。
ふと足下の崖の枯れ笹が 今日の陽光にゆらいだりすると、もうプシはさびしさと悲しさに一ぱいになってしまひ、かなしいことばがリトムに乗って流れはじめるのでした。・・・
──そうしたゆめみののち、しばらくしてプシは、夜、ペンでまとめて あなたに送りませうと、そのうたをくりかへし乍ら、Cisseのお手紙が待ち遠しくて 背中がいたむ──と言い乍らビューローに帰りました。
そうしたら、おお、何と Cisseのお手紙が待ってました!そしたら、それと同時にプシのペソスも プシのうたも忽ちに空中分解をしてしまひ、もう封筒にbaiserをくりかへすばかりで、時間がくると、大急ぎで 下駄をひっかけて眼医者さんへ飛んでいってしまひました。そうして、もう、Cisseのバカ、バカ、言ふきりで、外のことばはすっかり消えてしまひました。
ですから 今夜のお手紙が、詩にならず、とうとうCisseのバカ、バカ、のお手紙になってしまったの。
──Cisseはプシのポエジーを喰べされり──

共栄女学校からの返事は未だですけれど、明日あたり何とか言ってくると思ひます。明日が待たれます。周校長とは、聞くところによれば、シカゴ大学の出身だそうです。

Cisseよ! 今日は又 新らしいあなたの空気の中に生きた!
又、明日も、その次も、新しい空気を送って下さい。
ミューズのほほえみを送って下さい。
マラルメでも送って下さい。
毎日のどろ沼の人中からプシを救って下さい。
病気になってもいいから送って下さい。
あなたを喰べて生きてるプシのために。
──でも病気にならないで下さい。
今宵の細いアルテミスの、どのように輝に給ふた頃に、Cisseとお会ひ出来るかしら?
では 今日は仲直りのかへしに モリヂアニをお贈りします。
千のBaiserを送り返しつつ。Χaipe.
Cisse Cisse ψυχη

 もう一つ仲直りに、あなたのファーザーのために そぼくなプシの家族でも書きませうか。

 本人 鈴木静江 二十二才 群馬県立前橋高等女学校卒業

 父  鈴木静一 四十六歳
 母    さわ 四十四才
 弟    久男 十七才 群馬県立前橋中学校第三学年在学中
 弟    利二 十五才 同校 第二学年在学
 妹    房枝 十三才 国民学校六年生

    本籍 群馬県前橋市連雀町四九番地
    現住所 同右

大島博光様
二月十五日         鈴木静江
 
(註)
・Cisse・・・Nal Cisse(ナルシス)博光のこと。
・プシ・・・ψυχη(プシウケー)静江のこと。
・エトナ・・・浅間山
・ビューロー・・・群馬県農業会総務課、当時静江が勤めていた。
・共栄女学校・・・博光は就職するために履歴書を送っていた。
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