イオニアなるわがへロオよ

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 溺れずして、イストロスのほとりに帰りきたれるレアンデルの歌へる

ヘロオよ、 わがへロオよ、
われはしも溺れずして、ただひとり
再びイストロスのほとりに
帰りきたれるをうらむかな!
ああ、イオニアの海に溺れたらむには、
われむしろ幸にみちてありしものを!

ああ、君が海に溺れはてなば、へロオよ、
はやわがリラのかくも君を呼ばひて、
G線から金線へと顫へ鳴らざりしものを!
われの溺れてもなほ、 海底に、
君と相抱きて眠りたらむに!

されどいつの日か心焦(い)られて、
再び君が岸べへ泳ぎゆかむ。
祈るらくは ポセイドンの嵐を呼びて、
われをその深き胸に沈めたまはむことを!

君が蠱惑(まじ)みてるアカシアの林より、
遠くひとり離れて生きるははや死のごとし。
生きながらに死してあらむよりは、むしろ、
君が毒みてる美酒に酔いて、死にて生きむ!

おお、イオニアなるわがへロオよ、
その繊細過敏を誇りしわが知性も、矜持も、はた論理〈ロゴス)も、鏡も、翼も、竪琴も、
君ゆえに今はただ眠り閉ざし、
君のみわが王国、わが宗教、わが芸術とはなりぬ。

ヘロオよ、君がオオロラの微笑に触れなば、わが深く病みにし心も癒えむと思ひしに、
ああ、はからざりき、病ひのいよいよ募り、
血はわが頭蓋にのぼりて蒼ざめむとは!

近時、恋病みに死したるがごとき、
「愛の神(アフロディテ)」の忠実なる信徒絶えてなければ、
せめてわれこそ、アフロディテに
いと熱き崇拝を捧げむかな!
いつの日か溺るるもよし、息絶ゆるもよし。
Le 1 Fevrier

P.S. いよいよ怠惰な詩人にも国民徴用出頭令なるものが、今日参りました。二月五日に出頭、徴用決定までには少なくも廿日位の余猶はありませう。ただ希はくばイオニアの岸に近きところに徴用されたきものです。さらに希はくば、この徴用がウエディング・マーチによって伴奏さるる機会とならむことを!
 六日から私も二、三日、思い出の渋へスキイを担いで行ってきます。できたら十日ごろ来て下さい。来られるプランができたら、できるだけ早く知らせて下さい。出頭の模様もその頃には判明するでありませう。

鈴木静江様
二月一日(昭和20年)    大島博光
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