トーフー「スオットばあさん」

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 スオットばあさん
                 トー・フ一

クワンビンの砂丘の 焼けつくような陽ざしの中で
わたしは スオットばあさんの身の上話しをきいた
彼女は話してくれた──わたしの生まれた村では
たくさんの舶が河にも海にも往(い)きかっていました

夕ぐれと朝とに 潮は満ちてはまたひいていく
十才の頃から もうわたしは不幸に見舞われましただ
わたしは家から家へと女中奉公に出されましただ
十二年もの間ひとりぼっちで──それがわたしの娘時代
わたしも結婚しましたが子宝にはめぐまれなんだ
三回も わたしは死に児を生み落しましただ
わたしはふた親のこと 夫のこと 自分のこと
死んで生まれたその子らのことを思って泣きましたよ

今じゃ 土地も水もわしらのものになりましただ
沖へ出ていく船のかずもかぞえきれねえほどですじゃ
今じゃ 空の下 海の中 魚さえしあわせです
春のような心にならねえひとがあるでしょうか

わたしの夫もみんなといっしょに武器をとりましただ
わたしも「奉仕優良」婦人の仲間入りをしました
わたしは よるもひるも渡し船をこぎましたよ
味方の兵隊さんたちを河を越えておくりとどけましただ

嵐が吹こうと敵機がこようと かまいやしません
わたしらはうち勝ってきたし これからも勝ちますって
わたしも年をとったが 年などかまっちゃいられねえ
わたしは最後まで櫓をこいで戦いますだ

──どうしてあなたはそんなに強いんです スオットばあさんよ
彼女は答えた──祖国(くに)を救わねばならねえのに
どうしてぼんやり待ってなどいられるものですか
わたしは力ではもう若いものにはかなわねえ
けんど 櫓をこぐ腕はまだ失っとらんです
敵機はやすみなくやってきて 襲いかかる
わたしもやすみなく いつでも櫓をこぎますだ

私はスオットばあさんの耳に口をよせて たずねた
──旦那さんはあんたを放っておいて海へいくのですか
スオットばあさんは微笑みを浮べながら答えた
わたしは きっぱりと夫に言ってやったんです
「あんたは沖へ出ていく……わたしもそんなに臆病じゃない」
わたしはとうとう夫を説き伏せて同意させたのです
出かけるとき、夫と河でいっしょになりました
「波に用心しろよ 風に気をつけるんだぞ
これを持っていけよ 寒さよけになるからなあ」
なんとこの愛情物語のうつくしいことか
まひるの太陽の下 クワンビンの砂丘の上で

(「ベトナム詩集」飯塚書店 1968年)

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