不屈の生命

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 不屈の生命
            スアン・ジウ
            大島博光訳

おれたち生命と死神との戦いは
勝利と敗北とから成る
ある時ある場所では
死神が いちじ うち勝つことがある
この死神は 剣のように鋭い髭(ひげ)をはやし
ひろい額の下に黒眼鏡をかけている
この死神は 蜜のように甘い福音の言葉を吐く
この死神は カラー ネクタイ オーデコロンなどで
この上もなく優雅に変装している
この死神は 大勢の召使いを使って忙しい
この死神は 兵隊上りで どんちゃん騒きをする
これが 南ベトナムで
おれたちの母親や妹たちが
その頬に平手打ちをくらわしている
死神どもの面相だ

だが ふんぞり返ったヤンキーどもは
じっさいは 肩の中に頸(くび)をすくめて
出口のない穴から抜け出そうともがいているのだ
かれらが 口に爆弾をいっぱいつめ込んで
いくら声高く叫んでもむだだ
平然と田んぼの上をとぶ こうのとりを
追い散らすことはできぬのだ
なんのために この強盗どもは
南ベトナムの子供たちを
火のなかに投げこむのか?
なぜに 無防備の女子供をぶち殺すのか
おれたちの病院を 学校を
堤防を 村村を かれらが爆撃するのを
おれたちは見た
だが おれたちは
煮えくり返る怒りを じっとこらえて
さっそく爆弾の穴を埋めて その上に
種子をまき 苗を穂えはじめた
なぜなら おれたちは
何ものにもうちひしがれぬ生命だから

バン・ディエン郊外の家家は
焼き払われて跡かたもなかった
だが 母親は
わが家の屋根のあった場所にもどってきて
けなげな落ちついた心で彼女は
あたりに散らばった灰を掃きよせ
焼け残ったテーブルや椅子の脚を片づけ
まだ 少しばかり水の残っている
なかば壊れた壺や
やはり額を映すことのできる
鏡のかけらなどを見つけると
なつかしげな眼なざしを浮べるのだ・・・

グエン・バン・チョイは 処刑される前
若い妻に 書き送った
「用心深く 気をつけておくれ
浴室はつるつると滑るから!」
夕ぐれ 母親は取りだして見る
遠くの戦線へ行った息子の服を
そしてお祖母(ばあ)は
学校から遅く帰ってくる孫に
温かいめしをたべさせようと
めしびつを毛布の切れはしに包みこむ
夜おそく おれたち数人の作家たちが
河を越えて 戦線に出かけようとしていた
そのとき ハーモニカを吹く音が
ふるえながら茂みの中から聞こえてきた
それはまだ若い兵士たちが
戦火と戦塵にまみれた村の方へ
かれらの歌の花束を 香りを投げ送っていたのだ
愛する妻よ おまえはおれたちと一緒に
桟橋まで送って行こうとした
だが 渡し船が岸べを離れると
霧雨の中で もうひとの見分けもつかない
おれは 帰るようにとおまえに合図をした
しかしおまえは
渡し船が向う岸につくまで
河の水に足を入れて じっと立っていた
そうしておれたちをつなぐ絆(きずな)は引き伸ばされ
おれたちをいっそう強く結びつけるのだ

人間の眼に匹敵するような
二つの木の実があるだろうか
閉じれば それは
総(ふさ)のついたアーモンドの実だ
だが 開けば そこから
二つの芽がほとばしり出る
二つの稲凄 二本のひかりが・・・
おお すばらしい生命よ!

まさにいまは 炎のように燃える生命が
みずからの歌声を高く上げ
さらに熱く 燃えあがる時だ
離ればなれになった遠さにもうち勝つ愛のように
おれたちの汗は流れ 田んぼには
絹のようなみずみずしい稲が
青青と茂っている
おれたちの血は埃(ほこり)にまみれ
おれたちの街道は 「北」から「南」への絆を
いっそう強いものにした

叩け絶えず叩け 生命の扉を
めばえた 若い赤芽よ!
おまえは かたつむりのように
もろく 柔かく見えるが
しかし おまえが古い 厚い絆を
内側からうち破るとき
おまえは 鉄の力をもつ

そうだ おれたちは生命を愛そう
抵抗する 果てしない 永遠の生命を
へたばることなく不屈に
生命のまわりの見張りに立とう
へたばることなく不屈に
おれたちは火をかき立てよう
へたばることなく花花は咲き 鳥は歌う
きっと高い空 ひろい大地は
朝な朝なの太陽と 訪れくる夕ぐれの雲に
色どられ 飾られるだろう
おまえ 蓋(ふた)をした壷の中に閉じ込められた
アメリカの強盗どもよ
風や雨に泣きごとを言いにゆくな
いまこそ はっきり思い知るがいい
おれたちが生命だということを

──愛と祖国の詩人・スアン・ジウ──
 スアン・ジウは、一九一七年、北ベトナムのハティンに生まれました。革命前には、個人主義的でロマンティックな傾向をもった「新しい詩」運動の指導者のひとりでした。
 一九四五年、『祖国の旗』という詩をかいて、祖国の解放と革命を熱情をこめてたたえ、闘争に参加してゆきます。それ以来、祖国と人民の日常生活に現われる大きな変化、苦しみと希望、生きることとたたかうことの根本的な理由、などを、多くの詩集、エッセイ、批評において追求し表現しています。
 かれは愛の詩人であると同時に、祖国の詩人でもあります。「わが祖国は一艘の舟のようだ・・・」と歌っている『カマウ岬』はとりわけ有名な詩です。また祖国の英雄をうたった『グエン・バン・チョイ』も有名です。
 この詩『不屈の生命』でスアン・ジウは、巨大な軍事力をもつアメリカの死神にたいして、面とむかって戦っているベトナム人民の勝利の秘密について語っています。非人間的な面相をした死神にたいする、押えることのできない生命の勝利が、誇張のないリリスムで歌われています。堅い樹皮をつきやぶる柔かい若芽や、少年兵の夢を秘めたハーモニカの歌や、霧のなかで夫の出発を見送る妻のまなざしのなかに、それが歌われているのです。
 この詩は最近の作品で、作者自身によるフランス語訳に補筆したものが、このほど『フランス・ヌーヴェル』誌に掲載されました。拙訳はそれによったものです。(なお、『ベトナム詩集』(飯塚書店刊)には、この詩人の『カマウ岬』と『アメリカ機の墓場で』が収録されています) 大鳥博光

<『赤旗』日曜版 1972.9.3>
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