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わたしたちは待っている

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 わたしたちは待っている
                   大島博光

白い影像のむなしい手品師たち
うつろな白の影像をつみ重ねて
君たちはただ画そらごとにふける
血と肉の影像が繰りひろげられようというのに

蜃気楼に住む夢想家たち
そのまぼろしの鏡には映らぬのか
裏切られた祖国の叫ぶ姿も
売られゆくみじめな奴隷の姿も

まやかしの神話をあむ魔術師たち
その魔法の鏡には映らぬのか
空とぶ異国の禿鷹の群も
ふるさとの丘や港の兵器廠も

微風と星の占師たち
その純粋な耳にはきこえぬのか
象牙の塔の崩れる音も
鎖の音も 飢えの叫びも

忘却の海の酩酊者たち
君たちの耳は貝殻だというのに
「わだつみの声」はきこえぬのか
原子沙漠の呻めきはきこえぬのか

いまこそ眼をひらくべきときなのに
眠りの歌うたうギターたち
眠るには 戦争の足音が高すぎる
眠るには 祖国の闇は深すぎる

傷つくことのない鵠たち
虚空にたわむれる幸福な鳥たち
君たちは甘い絶望と死を歌う
とびゆく空さえ奪われながら

滴れた泉のナルシスたち
まぼろしの泉に 君たちは
奴隷に落ちゆく姿を映しながら
悲しいまぼろしの「自我」を抱く

君たちの美しいこよみには
のどかに四つの季節がめぐってくる
世界には嵐も雲もないかのように
地獄の季節はないかのように

人間と真実を歌うべきとき
人間の血をあかしすべきとき
愛と希望の火を燃やすべきとき
祖国を歌いつくるべきとき

わたしたちは待っている
嵐のなかにもなお 雲雀のように
春をうたい告げる詩人たちを
たたかいの果てに春はくるのだと

わたしたちは待っている
暗い冬の夜にも 鶏のように
夜明けを歌い告げる詩人たちを
夜明けは血と涙でたたかいとるのだと

(『現代詩代表選集』1953.10 『大島博光全詩集』)

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