千曲河畔にて──軽井沢日記(昭和19年)

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六月七日 千曲河畔にて

今朝は、日本アルプスが西の空に、まるで一畝(ひとうね)の白百合と菫との群生のやうに、蒼穹高く、朝の太陽に耀いていた・・・ 不眠の朝の熱い眼に、それはそのまま天啓のやうに耀いていた。ふとギリシャの神殿を想ひ浮べた。天空高く聳えた山脈の厳粛さと壮麗とが、この地上の、人間の手に成った偉大な壮麗を連想させたのにちがひない。それにしても、人間の偉大な創造は美しく、脆うく、涯ないが、この神々の殆んど怠惰な建造物は不朽で、厳然と、時に霞んでは優しく聳えている。時には、この山脈も天空を憧憬れて、震えるやうなその峯々の指を空に伸ばしているやうに見える・・・ 雪の融けた紺碧の山膚はもう蒼穹の中に溶けこんで、白い雪のみが浮いて輝いている・・・
  知者楽水、 仁者楽山
野に摘んだ三色菫を手にしながら、河原でしばし山を楽み 水を楽む。
河畔には もう濃緑の白楊が「影の蝋燭」のやうに陽光の中に樹っている・・・

<ノート戦前-S19>
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