血の週間 (10)──五月二十八日 さくらんぼとルイズ/Commune de Paris_Semaine Sanglante

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 五月二十八日、陽がのぼったとき、第十一区と第二十区(メニルモンタン地区)には、孤立したバリケードがいくつか、わずかな連盟兵によって守られているだけであった。ヴァレスは書いている。
 「ベルヴィル街のふもとの大バリケードのうえで、数人の砲兵が大砲を操作していた。そのひとりは、まだ二十歳(はたち)にもならず、髪の毛は蜜色で青い眼をしていた。とつぜん、かれは叫びをあげて倒れた。額を撃(ぶ)ち抜かれていた。銃眼はふっとび、バリケードを崩れ落ちた・・・」
 朝の十時、抵抗が見られたのは、わずかにフォブール・デュ・タンプル街、トロワ・ボルヌ街、トロワ・クーロンヌ街、ベルヴィル大通りの一部分などにすぎなかった。
 コミューン議員のヴァルラン、フェレなどが、フォーブール・デュ・タンプル街およびフォンテーヌ・オ・ロワ街のバリケードでたたかう。詩人ジャン・バティスト・クレマンが、二十歳(はたち)ぐらいの若い娘に会ったのも、フォンテーヌ・オ・ロワ街のバリケードにおいてであった。彼女は籠を手にしていた。彼女は野戦病院付の看護婦で、サン・モール街のバリケードが陥ちたので、こちらの方に何か役立つことはないかとやってきたのであった。クレマンは書いている。
 「われわれは、彼女を敵から守れるかどうか分らないといって拒(ことわ)ったにもかかわらず、彼女は頑として、われわれのそばから離れようとはしなかった。
 われわれが知ったのは、ただ、彼女がルイズという名前で、婦人労働者だということだけであった。」
 後年──一八八五年、『シャンソン集』刊行に際して、クレマンは、かれのもっとも有名なシャンソン、『さくらんぼの熟れる頃』を、この英雄的な娘ルイズに献じている。
 最後のバリケードは、メニルモンタン地区の、ランボノー街とテゥルティユ街との角のバリケードで、しばらくはひとりの連盟兵が守っていた。バリケードが崩れおちると、連盟兵は姿を消した。かれはうまく逃げおおせたとリサガレは書いている。その連盟兵は、どうやら、リサガレじしんだったらしい。
 「大地ハ敵ノ死屍二蔽ワレタリ コノ怖ルベキ光景ハ見セシメトナラン」 ──ティエールは全国の知事宛に、こういう電報を打った。街々は文字どおり、るいるいたる死屍に埋められていた。捕虜の多くはその場で殺された。その胸には、「人殺し」 「泥棒」などの貼紙がはりつけられた。ラ・ロケット牢獄では、小川のように血が流れた。なかには、半殺しのまま放置されたものたちもあったので、屍体置場からは、夜どおし、断末魔の埋き声が聞こえた。
 二十八日の夕方、ヴェルサイユ軍総司令官マク・マオン将軍が、「本日、パリは解放され、戦闘は終わった。秩序、労働、安全は回復されよう」と宣言するあいだにも、虐殺はつづいていた。各区に、数人の将校から成る略式軍法会議が設けられ、その場で処刑がおこなわれた。右岸のシャトレでは、夜昼、軍事裁判がおこなわれて、大量処刑がロボ一兵営で執行された。サン・ジャック辻公園、証券取引所、ヴアンドーム広場、シャロンヌ街、モンソー公園などが、コミューン戦士や容疑者たちの屠殺場となった。ノール駅の近く、カフェ・デュ・デルタの正面には、死体を投げこむために、巨大な穴が掘られた・・・。
 ヴァレスは、戦闘末期のパリの街の夢のような美しさと残酷さとのいりまじった光景をつぎのように描いている。

 五月二十八日
                        ジュール・ヴァレス

 五月二十八日 戦いはまさに終ろうとしていた
 疲れきった大砲が 断末魔のわれわれに吼えていた
 しかし まだどこか向うの方に 血まみれの旗が一本
 積みあげた舗石の山のうえに 残って立っていた
 おれは旗をめざして進んだ 戦い疲れて よろめきながら
 味方は死んじまって ついて来る者はひとりもいなかった
 おれは死物狂いの戦闘に疲れはてて 息を切らし
 垢と硝煙でまっ黒になり 傷の痛みをこらえていた
 おれの通った街は 静かで ひと影もなかった
 舗道には ひげのような緑の草さえ生えていた
 花の咲いた棚の葡萄の先が 壁に伸びていた
 まばゆい太陽が ただならぬ空に燃えていて
 砲弾が 燕のように すっと筋を引いて飛んだ
 燃える戦火は 赤黄いろい翼をひろげていた
 熱い大地と煙の立ちこめる空の間に 敗残兵のおれは
 ふと立ち侍った 蒼ざめ 疲れ 血にまみれて・・・
 何を考えていたのか──おれは気を失っていた
 思い出は 歴史の夜のなかに とぎれているのだ
 だが、眼を地平線に向け どこともなく心をさ迷わせ
 指は赤く血で汚れて 頭はぼんやりとしたまま
 まるで空っぽの銃を握りしめた気違いのように
 そうやって ただひとり 立ちつくしていたとき
 時どき しゃっくりのような大砲の音がうち破る
 深い静けさのなかから 物音が聞こえてきた
 反射的に おれは頭をもたげてみた・・・すると
 バルコンのうえに肱をついて なまめかしく
 青い眼をした 金髪の女がひとり 眼に映った
 女と敗残兵とは 二人ともじっと見つめ合った
 彼女は 結び玉のついた 赤いガウンを着て
 カーネーションをさした帽子を 斜めにかぶっていた・・・
 それは一瞬の光であり炎であり 稲妻でしかなかった
 あたりの澄んだ大気をひき裂いて 声が聞こえた
 おれには 壁にかくれるひましかなかった
 撃て! と叫んだのは ヴェルサイユ軍の兵隊だった
 いまもおれには あの青い眼の光が見えるようだ
 鉄砲の弾丸に赤く射抜かれた あのガウンが
 死臭のただよう大気のなかの あの時れ着姿が
 砦のうえの あのなまめかしい姿が 見えるようだ
 そしていまも 彼女の姿を 思い浮べると
 硝煙の匂いと彼女の花の匂いが 入りまじって匂ってくるのだ

<『パリ・コミューンの詩人たち』─血の週間>

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