静江への手紙 (3)「光のなかで制作の歓びに浸っているあなたが見えるやうです」

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 光のなかで制作の歓びに浸っているあなたが見えるやうです。あなたの「若き芸術家の肖像」が完成されるやう祈ります。さうしてそのクロッキイの一つを送って下さい。(さういふあなたのポーズが、私の著作を私に思い出させましたので、それを同封します。)
 もう寒くなって、釣もできないとおもっていましたら、今度は冬の釣を教へられて、また水のほとりへ通っています。これではまた
 輝かに、いと澄める芸術(たくみ)の季節、冬の日を・・・(マラルメ)
空しく釣りに捧げてしまひさうです。 暗い冬籠りの中から生れてくる内なる光は、空しく外光の中に放散されてしまひませう。
 今は、こんな図のやうな釣です。錨のやうな三叉の釣針で、橋の上から下に群れている魚を見つけて、引き上げるのです。見えざる訪れを待つのではなく、可見のものを能動的に捕捉するので、もう釣といふより、スポーツに近いものです。昨日は二百匁大のもの、二尾釣りました。
 しかし、釣れなくとも、竿を肩にして、枯葦の生ひしげっている河ばたを歩いていると、もうそれだけ救はれます。何の思考の努力も必要とせず、私自身もただ動く一本の樹木となってしまひます。
 音楽に飢えて、来月の日響を聴きに上京しようと思っていましたが、帝都ボムビングで、もう出かける勇気を失ひさうです。それに、プログラムも、余り魅力あるといふほどでもありませんから。
 御健筆を祈ります。

                       大島博光
鈴木静江様
       十一月二十八日(昭和十九年)

手紙

<詩「黎明」を同封>
 
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