fc2ブログ

随想日記  四月二十四日 魚つるの軒の下

ここでは、「随想日記  四月二十四日 魚つるの軒の下」 に関する記事を紹介しています。
随想日記
四月二十四日
 結婚以来、日記をつけようつけよう思いながら、十年もつけずに過ごしてしまった。過去をとどめないわびしさを感じる。今日から、自分をとりもどしたつもりで、自分をしっかりつかんで行くつもりで、書いていこう。
昨日、4畳半にこたつが完成*したので、夜自分の時間が持てる様になった。さて、何をしようかしらとまどう。一つの方向を決めて、勉強して行きたい。とにかく今、ヴァイオリンもしたいが、柳田国男全集を読んで行こう。昨日、朋光にかけざんの表を作ってやった。「つまらない」と言って見つめられると、母と子の対決と言った感じで、心の中では貴い少年時代を最も楽しく過ごさせてやりたいと思いながら、時を急いて仕事に行ってしまわねばならず、一緒に過ごせる日曜日も持てないのを考えさせられてしまう。風が雨に変わって、魚つるの軒の下*でひまな時を、西の農家の大けやきのそよぎを見て過ごす。新緑のいぶきかけたおおけやき! 十七、八の頃、前橋公園の新緑に涙したものだったが、コローのモチーヴを思わせるような、プーサンの風物を思わせるような、雄大な、わかやぎかけたおおけやき。もろもろの新緑の樹々の上にそびえて。斜め向かいの選挙事務所を見てるとは現実がいやになり、けやきを見ては、もう暇だから、たまには早く引き上げて子供達と一緒の時を過ごしてやろうか、など思うのだが、ついお客が来ては六時近くまでとどまってしまった。稲玉君*の手伝いで大島の書斎が、すっかりきれいになった。早く建具が来てくれば、と話し合う。
午後出かける前、玄関ですきをみて、ペッティングをしたら、桃子が、見ていてお父ちゃんにとびつくのでおかしくなってしまった。
夕飯頃から、桃子も秋光も風邪気味で、元気なく、秋光はビスケットを抱いて寝てしまい桃子は何回と目をさまして泣く。この分では今晩私が熟睡出来そうもない。朋光と二人で机をかこんでこれを書いている。
じゅうしまつ*が、雄だけになってピイピイ鳴いている。二度目の奥さんも亡くしたじゅうしまつ。ここのところ不景気だけど、今のところ、大島の服仕立てと建具の目標で、かせぐつもり。五日は潮干狩りの予定。房州の岩崎海岸がよいと、大島が夕刊を見ながら言う。

*4畳半にこたつ・・・居間に堀こたつがあったが、できたのはこの日だとわかった。
*魚つるの軒の下・・・静江は下連雀の「魚鶴」という大きな魚屋の一角に場所を借りて花を売っていた。その後、向かい側に生花店を開いた。この昭和30年頃はまだ店を持っていなかったようだ。
*稲玉君・・・松代の親戚の人で、後に大島生花園で働く。
*ジュウシマツ・・・子供達が飼っていた。

関連記事
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://oshimahakkou.blog44.fc2.com/tb.php/1354-bb9bf639
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック