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アラゴン「鏡」

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 鏡
                       ルイ・アラゴン/大島博光訳
 
たとえ 鏡が映したとしても
薔薇とこがねいろのミモザを
風にそよぐ 猫柳を
赤く血にまみれた サルビアを
すみれと リラの花を
たとえ 鏡が映したとしても
鏡はそれで 疲れた眼を癒しただけだ
また 斑鳩(じゅずかけばと)の 白い羽根を映し
つるにちにち草の眼をそっと盗み
空を そのひと切れを小さく映し
太陽を映し 降る雨を映し
光に 恋いこがれたとしても
おまえが やって来たとき
鏡は 身ぶるいしたのだ
おまえの唇を 酒のように吸い
おまえの音楽に 身も世も忘れた
肉体の 楽園の奥で
おまえが 出てゆくときには
もう なんにも見えはしない
深い眠りのなかで ただ
おまえだけを夢みるのだ
ミモザにも 薔薇の花にも
ほかのものには眼もくれず
むかし酔ったものを忘れはて
いまはただ エルザを映す鏡なのだ

<訳詩集「エルザの狂人」草稿>

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