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アラゴン「エルザへの祈り」

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 エルザへの祈り
                            ルイ・アラゴン

おお どんな言葉も おまえを捉えることはできぬ
どんな絆(きずな)も帯(おび)も おまえをつなぎとめることはできぬ
おまえの その眼は ふたたび輝やきはじめる
わたしという星が またたきをやめるというのに
そうして夕ぐれだろうと 朝だろうと わたしは
おまえの裸わな足もとに 泡のように膝まずく 
それなのにおまえは その泡のやむにやまれぬ運命(さだめ)を
  まるで霧のように 抜き散らしてしまう

わたしは おまえの足跡をつけてゆく獣(けもの)だ
わたしは おまえの船跡をとどめている海だ
風に鳴るおまえの扉の前に たたずむ夜だ
わたしは おまえが通ると はたと止む物音だ
わたしは おまえをあやし 抱きしめる影だ
わたしは おまえをつくりだした伝説だ
おまえは わたしの両腕から 抜け出られずに
  いつも わたしの両腕の中で 疲れていた

わたしのうたった歌で よみがえるおまえ
わたしは手を合わせて おまえをおがむ
わたしの眼はめくるめき 気も狂わんばかり
おまえは わたしの足どりを軽くしてくれる
どうか くちびるにかがやく 紅(ルージュ)のような
おまえの顔を わたしの方に 見せておくれ
わたしの苦しみ 痛みがもっとやわらいで
  とりみださずに 静かに死ねるように

わが心臓の横たわる土の中 グラナダも滅びる
棕梠の木立も色あせる 新しいパルミールの廃墟
おまえの魔法の 優しい ふしぎな力をふるって
モウルの池に おまえの姿を映しておくれ
滅びゆくアラブの総督たちの 最後の陽の光で
そこに愛は さかさまに も一度姿を現わす
明日(あす)は そっとおまえを眠らせておきたいものだ
  夜明けの空が 赤らんできた

後の世の人にも頼もう おまえを返えしてくれと
どうかそこから わたしらの処へ戻ってきておくれ
いま イスラムの終ろうとする 最後の時に
どこからでもいい わたしの処へ戻ってきておくれ
そうすれば わたしの夢にも幕が下りるのだ
国じゅうを荒しまわった 剣と戦火に幸あれ
エルザよ せめて おまえのその膝のうえで
  わたしを死なせておくれ

<訳詩集「エルザの狂人」草稿>
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