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ポン・ヌーフの橋の上で私は出合った  アラゴン

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ポン・ヌーフの橋の上で 私は出合った

                    アラゴン
                   大島博光訳

ポン・ヌーフの橋の上で私は出合った
錨もおろせぬ荷物船や
サマリテーヌの地下鉄駅の
あの遠い歌がきこえてくる橋の上で

ポン・ヌーフの橋の上で私は出合った
杖も紙挟みももたず犬も連れず
そのまえをひと波も遠ざかる
失意のひとびとを憐れんで

ポン・ヌーフの橋の上で私は出合った
私じしんのむかしの姿に
その眼はただ泣くために
その口はただ呪いちらすために

ポン・ヌーフの橋の上で私は出合った
おのれの苦しみばかりにかかずらい
こころ奪われた乞食のような
あの見かけもあわれな私の姿に

ポン・ヌーフの橋の上で私は出合った
このほとり かって私だったものに
かって あけぼのに私だったものに
あの頃のようにきょうも煙り

ポン・ヌーフの橋の上で私は出合った
わたしの生れる前からもいたような
あのいつもおどおどおびえた子どもに
わたしの青春のまぼろしに

ポン・ヌーフの橋の上で私は出合った
空想にふくらんだ
詩にとりつかれた二十才の若ものに
夢でしかなかったあの腕白者に

ポン・ヌーフの橋の上で私は出合った
腕を組みあう相手(ひと)もなくて
くちびるは風に荒れはてて
口ずさむ歌に酔ったあの若ものに

・・・

ポン・ヌーフの橋の上で私は出合った
遠くにもうひとりの私に 私の仮装姿に
そうしてかげってゆく陽のなかで
同志よと彼はそっと私につぶやいた

ポン・ヌーフの橋の上で私は出合った
無知で信じやすいわたしの生き写しに
そうして永いこと私はじっと止まっていた
あとじさりしてゆく私じしんの影のなかに

ポン・ヌーフの橋の上で私は出合った
すりへった石のうえに座って
わたしのつぶやいたリフレーンに
わたしの光であった夢に

ポン・ヌーフの橋の上で私は出合った
めぐり合っためくらよ めくらよ
男やもめの眼ざしで行くものよ
おお 過ぎさったわたしの過去よ
  ポン・ヌーフの橋の上の

  (1961年12月 「角笛」21号)
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