千曲川

大島博光記念館へようこそ。
長野詩人会議が中心となって建設運動をすすめ、2008年7月にオープンしました。
愛と抵抗を歌った博光の詩の世界にふれていただけます。


 5 スペイン人民の英雄的気迫

 しかし、人民のスペインは、ばらばらに切りきざまれ、血の海のなかに投げこまれた。民主主義者たちは投獄され、拷問をうけ、絞首刑にされ、あるいは銃殺された。スペインの詩人たちもまた襲われ、銃殺され、獄死し、あるいは国外に亡命した。詩人ミゲル・エルナンデスはアリカンテの牢獄で死に、アントニオ・マチャードは亡命しようとピレネーの国境を越えて、フランス領コリウールで死んだ。ラファエル・アルベルティは亡命した。アルベルティのつぎの詩には、マドリードを死守するスペイン人民の英雄的な気迫が、音高く切迫したリズムで歌われている。

   マドリード防衛の歌

   スペインの心臓 マドリードは脈搏つ
  熱病にうかされた早い動悸で
   きのう その血はすでたぎっていたが
   きょうは さらに熱く 煮えたぎる
   マドリードはもう眠りこめない
   眠り込んだら さいご
   眼をさまそうにも
   もうマドリードに夜明けはやって来ないのだ
   おお マドリードよ 戦争を忘れるな
   敵の眼が 死のまなざしで
   じっと おまえを覗っているのを
   けっして忘れるな
   禿鷹どもがおまえの空をうろつき
  おまえの赤い屋根を
  街まちを おまえの勇敢な人民を
  襲おうとしている
   マドリードよ けっして口にするな
   言いふらしたり 考えたりするな
  スペインの心臓のなかで
  血が雪に変ってしまったなどと──
  おまえのなかには いつも
  雄々しい勇気のわきでる泉がある
  怖るべき驚異の川が
  その泉から流れでるはずだ
  すべての街が 最後の時には
   もしも そんな不幸な時が来たら
   ──そんな時は来ないだろう──
  もっとも強固な砦よりも
   もっと強く たくましくあってくれ
  ひとびとは 城のようになり
  額を 銃眼となし
  腕を 高い城壁となし
  撃ち破られることのない城門となってくれ
  スペインの心臓をのぞいて見たいものは
   やってくるがいい
   さあ急いで! マドリードはすぐそこだ
   マドリードは 足蹴にされようと
   爪でかきむしられ ひじ鉄砲をくらおうと
   ぶんなぐられ 噛みつかれようと
   マドリードはおのれを守る術を知っている
   タホ川の緑の流れのほとり
   マドリードは 腹を空(くう)にさらけ
   たけだけしく 堂々と たくましい
   ナバルペラルのあたり
   シグエンサのあたり
   マドリードのたぎる血を凍らせようと
   雨あられと砲弾は降る
   スペインの心臓 マドリード
   大地よりなるマドリードには
   掘りかえせば そのなかに
   荘厳で 深い 大きな穴がある
   待ちうけている谷間のような……
   それだけが死をうけいれることができる

(『レジスタンスと詩人たち』─序章 ファシズムのスペイン介入と詩人)

マドリード