千曲川

大島博光記念館へようこそ。
長野詩人会議が中心となって建設運動をすすめ、2008年7月にオープンしました。
愛と抵抗を歌った博光の詩の世界にふれていただけます。


 田んぼにゆく
              チャン・フー・トン 大島博光訳

日がのぼって 明るくなるにつれて
稲穂はこがねいろにかがやく
露もきらきら光って
草の葉でゆれている
青空の高みで
ひばりが調子高く歌っている
消えては現われるカッコーのひびきとおる歌が
野の遠くの方から聞えてくる

わたしは 鍬によりかかって見渡している
すると わたしの心は高鳴ってくる
ちょうどけさのような あの日の朝を
わたしは 思い出すからです
あの朝も ひばりが鳴いていた
稲は 穂をもちはじめていた
わたしは あなたを見送っていって
さよならを 言ったのです
あなたは 藤つるのかごをしょっていた
檳榔子の葉に包んだ餅を
わたしは腕にかかえていました
稲にひっかかってサンダルをとられると
あなたは身をかがめて急いでサンダルをはく

ひろい田んぼを横ぎりながら
この土手で あなたは言ったのです
「おれたちは 二度目の草とりを忘れていたから
稲の熟れ方が 不揃いだよ
おまえ 忘れないでおいてくれよ
このつぎには もっとうまくいくようにな」
遠くから 歌ごえが聞こえてきた
あなたの心は躍った
わたしたちは 集合地にたどり着くと
あなたはわたしに帰えれと言った……

三回 蜜柑の実がなった
三回 ざぼんの花が咲いた
防衛戦の始まった日に
あなたは 行ってしまった
「釣合作戦」がはじまったとき
あなたは 短かい手紙をよこしてくれた
わたしは長いことその手紙を握りしめていた
わたしの心は旗のようにはためいた

逆襲の季節がまもなくやってくる
わたしの稲はもうみのっている
こんなに稲穂がみごとに出揃っているので
わたしはきっと増産賞をもらいます
あなたよ 指を折って数えれば
もう四年が 過ぎました
ひとはわたしに言います
「もう 待っていてもしようがない」
「待っていても もうむだだ」
しかし わたしはあなたへの心を守っています
庭の入口に バナナがみのりました
戸口の前に 蜜柑が黄いろくなりました
わたしたちの田んぼ わたしたちの庭を見る時
どうしてあなたのことを思わずにいられましょう?

季節がさってまた季節がきます
わたしは 鍬を肩に田んぼにゆきます
愛するひとよ わたしたちの稲穂は重くたわわです
わたしのこころは躍ります
わたしははっきりと見とどけるのです
わたしたちの勝利を

チャン・フー・トン 一九二六年生れ。中部ベトナムの農民出身。革命後の世代の若い詩人たちのひとり。主として農民の生活をうたう。詩集に『八月の鈴』がある。

(『ベトナム詩集』1974年4月)

田んぼ