千曲川

大島博光記念館へようこそ。
長野詩人会議が中心となって建設運動をすすめ、2008年7月にオープンしました。
愛と抵抗を歌った博光の詩の世界にふれていただけます。


アルベルティによる墓碑銘

 すでに述べたように、ピカソの遺体は南仏エクス・アン・プロヴァンス郊外ヴォヴナルグの古城に埋葬された。死んでも故国スペインに帰ることのできなかったピカソを悼んで、アルベルティはつぎのような墓碑銘を書いた。

 ピカソの記念碑のための碑銘    ラファエル・アルベルティ

フランスの大地よ 彼の根を守ってやってくれ
フランスの大地よ 彼の根を潤(うるお)してやってくれ
それが日ましに深く根を張り 遠く伸びて
ついにスペインの大地に入り込み それをつき破って
そこに新しい空気を吹きこんでくれるように
            
フランスの大地よ 
彼の上に軽やかであってくれ 彼がきみの上に
どんなに重たかったか 忘れないでくれ

かれは遠くからやってきた男だ
地上にやってきた不思議な光だ
そしてとても遠くへ行ってしまって
われわれには光が残った

彼は持ってきた以上でなくとも同じ位を持ち去った
きみが泥棒なら 足を止めずに通り過ぎたまえ
ここに眠るものは 夢みる
穂麦は 絵筆だと
彼のただ一つの収穫(とりいれ)は穀物だと

ここにはすべての色が横たわり
考えられうるすべての線が横たわる
それらは互いに噛みつき 結びつき ほぐれ
それから仲直りをし とつぜん抱き合う

ゲルニカはわたしだ 自由の木だ
さあ わたしの木蔭に坐って
歌ってくれたまえ

わたしは死にはしない
わたしの墓から青を剥ぎとり
海べに横たわって青に見とれてくれ給え
  
ここにはだれも住んでいない
ただ ひとつの名前があるだけだ
だがきみは 世界じゅういたるところで
わたしに出っくわすだろう
      
もしも夜明けに
牡牛たちの啼くのが聞えたら
それはわたしではなく
ここに閉じ込められた人たちだと 思ってくれ給え

きみは きみはもうここにはいない
土のなかに葬られるやいなや
きみは甦った 永遠に

鳩よ わたしに言ってくれ
どうして今朝(けさ)は飛ばないのか
それでは どうしてきみを描けようか?
                              
 この詩が書かれた時、ファシスト・フランコとフランコ体制はまだ生きていた。「ついにスペインの大地に入り込み それをつき破って/そこに新しい空気を吹きこんでくれるように」──という詩人の願いと呼びかけは、そのようなスペインに向けられていたのである。
 最後に、アラゴンの後の若い世代に属す詩人、ミッシェル・ビュトールのピカソ讃歌をかかげておこう。

▶ムージャンの魔法使いのバラード

<新日本新書「ピカソ」─ピカソの死>