ビキニの灰

ここでは、「ビキニの灰」 に関する記事を紹介しています。
千曲川

大島博光記念館へようこそ。
長野詩人会議が中心となって建設運動をすすめ、2008年7月にオープンしました。
愛と抵抗を歌った博光の詩の世界にふれていただけます。





  死の灰 
            斎藤林太郎

来る船 来る船みな灰をかぶり
死の灰が吹き
死の灰が降る
農家の温床
街の台所にそいつは降る
悪魔どものビキニの死の灰。

八千万の人口密度
食糧の不足を海からあさる日本
太平洋のすみっこ列島日本は
一体これから何を食うのだ。

降らした灰の一粒も機密だと
放射能に射られたひん死の漁夫たちを
モルモットがわりに使おうとする
冷酷な彼らのやり口

世界の人民から陰口言われ
嫌悪とのろいの睡を吐かれ
真正面から戦争放火者と極印され
なお憶面もなく
自由と平和の舌看板
日毎変る世界地図を
キヨロキヨロ見まわし
革鞄を抱えて
こうもりのように夜の飛行場からも飛立つ奴。
キリストを言う舌先から
水爆のおどし文句をふりまく奴
マグロ肌の芥文化を地上にふりまき
民衆をめくらにしようとたくらむ奴
終末の政策を星条旗で包む奴
あせればあせる程しっぽが出
大きな矛盾のまえで首をかしげる奴
もはやその独裁の情性は許せない
高まる意識は批判をふかめてゆく
新聞写真のマグロの内臓から
検出される放射線の炎に
彼らの腹わたの正体が見える
ヒロシマ、ナガサキを原爆で焼き
いままた 死の灰を人間の頭上に降らせ
傲慢に武力を誇る奴
貪欲な商法で苛酷な戦争え
他民族をかりたてる奴

支配者と民衆の
これ程はっきり現われたときがあったろうか
もはや戦争は彼らの考えてるようなものではない
彼らが無謀な戦火を切るとき
目前にも背後にも
立ちふさがる民衆の防壁に
驚愕するだろう
首をちぢめておののくだろう

おお 五月の若葉
新緑の若葉の季節に
彼らの終幕を閉せ
悪魔どもの舞台を廻せ

腕まくりの手で
日灼けた肩で
筋ばった足で力を入れよ

葬れ 葬れ
彼らの死灰とともに葬れ
世界から
永遠に
そいつらを
氷と暗黒の裏側え裏側え──。
一九五四・五・二



   (『角笛』11号 ─ビキニの灰特集 1954.8)

母子像 






 ビキニをめぐる島々に 
               北条さなえ

ビキニをめぐる島々に
怖ろしい灰がふっている
ビキニをめぐる海の上に
死の灰が音もなくふっている

だが船は波まをかけめぐり
甲板の上にはまぐろの山
エンヤエイ エイと漁夫たちはうたう
おお 海ととりくんだ日はすぎた

かがやく銅いろの皮ふをなで
心は はやも ふるさとへ
流れよ 潮よ 足ばやに
ふけよ 風よ ふるさとへ

その時いまわしい災いが
しのび足しておそいかかる
ふれたものをやきころす
悪まのまいた死の灰が

おお どうしてのがれることができただろう
ぶきみな灰の洗礼を
ビキニをめぐる海の上に
音もなくふる死の灰を

エンジンの音をふるわせて
不運な船は走りさる
不幸な漁夫たちと獲ものをのせて
呪われたビキニよ 不幸な島の人々よ

船は 息せき かえってきた
なつかしい町 ふるさとの波うつ岸に
だが 妻たちの花は真昼にしぼみ
漁夫たちはたおれ えものは土深く埋められた

それ以来 日本には
不幸が つゞいておそってくる
風が死の灰を運んでくると
放射能の雨がふりそそぐ

空気も 水も 魚や野菜も 花さえも
悪病と 時ならぬ死の匂いがする
おお ビキニ ビキニの空のきのこ雲を
まきおこした奴を私は憎む

おお ビキニ ビキニの空のきのこ雲を
まきおこした奴を私は憎む
そして私は なお憎む
悪魔への協力を誓うどこかの大臣を──

アジャには今も死の灰の灰がふっている
だが やがてもっと怖ろしい灰がふろう
悪魔と 黒犬とその手先きの上に
──神と民衆のさばきの灰が──


   (『角笛』11号 ─ビキニの灰特集 1954.8)

海


 世界死の舞踏の序幕 
              土谷 麓

一九五四年の早春に
はるばる風にのってやってきた死の灰

遠洋漁業の帰還船が
必らずもってくる死の灰。
 いけにえ。
白血球の減少した腐れ易い
生(なま)の肉体。

気流にのり 海流にまぢり
日本列島海域の到るところに
死の影が 降る
死の影が 降る

水素爆弾が炸裂する
ビキニ環礁一帯は
いけにえ。 ふえ。
生命の青の紋章に
不吉な哄笑お なげつけていた

これお みてくれ みるもむざんな
放射能のくしばんだ頭
いけにえ。 くされるからだ。

アジアのちいさい島に追いこめられ
こうもりのように覆いかぶさる
不吉な死の影……
ビキニの死の灰……

 (文化いただきにのぼり
  悲願は生むよ
  果しない 絶望お)

るいるいと死は島おうづめ
死にきれづ のたうちまわる住民
虫くれ みすてられ

鋭い角度の生命路線に
毒灰お 逃れるすべがない

もう
かなしみはよろこびの夢おみることがない
(屋根に降つてくる死の灰)

幼児の からだお まもれ
母のからだお まもれ
すべての親と子との からだお まもれ
逞しい筋肉お まもれ
やわらかい 乳房おまもれ

恐怖の卑怯の
気狂いの ヒステリックな
野望お 砕け

「世界死の舞踏」の序幕の
その演出家 どもお

おお 灰色の 死の灰よ
雨にまぢり 雪にまぢり
地獄の ごうもんは
アジアの ちいさい 島お 狙う
その島に住む 有色人種お
殺人お。 実験で。
僕らお。 僕らの国の民お 殺す

自由という 共存という
政治理念の
綿密に計画された甘い囁き

(放射能に因る大量殺人お
あらかじめ計画しています)

水素爆弾の名状しがたい音響と
そのかたちとが
海の魚お殺し
陸の人お殺しつづけるとき

傷ましい嘆きが
地球に充溢するとき
ひとの心はもう
死の灰お 怖れないだろう

すべての親と子とのからだおまもれ

        一九五四、四、二六



(『角笛』11号 ─ビキニの灰特集 1954.8)

海
『角笛』11号(1954年8月発行)でビキニの灰を特集していました。
小熊忠二が巻頭言をかき、片羽登呂平、土谷麓、海老根勉、北條さなえ、斉藤林太郎、佐藤隆男、立岡宏夫の各氏が詩で核実験を告発しています。

──ビキニの灰特集──
ビキニの灰特集によせて  小熊忠二
断片  片羽登呂平
世界死の舞踏の序幕  土谷麓
それが本当の平和なら  海老根勉
ビキニをめぐる島々に  北條さなえ
死の灰  斉藤林太郎
日光浴  佐藤隆男
夏にうたう  立岡宏夫

小熊

角笛