アフリカの詩

ここでは、「アフリカの詩」 に関する記事を紹介しています。
千曲川

大島博光記念館へようこそ。
長野詩人会議が中心となって建設運動をすすめ、2008年7月にオープンしました。
愛と抵抗を歌った博光の詩の世界にふれていただけます。


 自由のために死んだ人たちのために    大島博光訳

十二月の とある明け方
おれたちは行こう
あの人たちの葬られた 秘密の場所に
心も重く 涙も浮べず
だが しっかりとした心で
おれたちは行こう
あの人たちの共同の墓の前に
そうして あの人たちに言おう
「兄弟たち
きみたちの身体(からだ)はもう 影かたちもない
夜も昼もない あの世で
きみたちだけの知っている あの世で
聞いてくれ 虐殺から生き残った者たちの声を
きみたちが生命(いのち)を賭けて 仆れた
あのおれたちの正義の大業を
おれたちは 裏切らなかったぞ
きみたちが かなぐり捨てた首木(くびき)を
おれたちは はねのけたぞ
おれたちは しっかりと確信を抱いている
おれたちは 必ず勝利する」と

(自筆原稿/アフリカの詩

朝焼け
アフリカの詩(訳詩)もくじ 

1 モザンビーク
おれはどこにいるか(カリュンガーノ)

2 アンゴラ
出発まぎわのさようなら(アゴスチニョー・ネトー)

3 その他(作者名なし)
・おふくろに
燃えるタムタム (1)
燃えるタムタム (2)
戦争 (1)
戦争 (2)
戦争 (3)
自由のために死んだ人たちのために
・IN MEMORIAM(死者たちの思い出のために)

(自筆原稿)


 戦争3



(自筆原稿)
戦争2


<自筆原稿 アフリカの詩>



燃えるタムタム2



 

(自筆原稿)
戦争(1)

あの日
タムタムは 鳴り止んでいた
おれには 何もわからなかった
通りでは 大人たちが
顎の下に手をやって
じっと眼を地面に落として
暗い顔で
ひそひそ声で話していた
通ってゆく車も
いつものような音を立てずに通った
おれには 何もわからなかった

夜 家に友だちがやって来たが
やっぱり 高い声で話さずに
低い声で そっと言った
「おい 戦争だとさ・・・」
おれは姉にたずねた
「戦争って 何んだい」
姉も知らなかった
姉は おふくろにたずねた
「戦争って 何あに?」
おふくろは黙りこんで
やがて言った
「戦争っていうのはなぁ
死ぬることだよ」
おれには 何もわからなかった
おれは小さくて 六つだった

それから六年後の ある日
戦争が終ったと
みんなが話していた
おれには 何もわからなかった
だが おれはうれしかった
みんなもよろこんだ
おれたちは歌った「G将軍が
百人の部下を連れて 自由を手に入れた」
学校が休みになって
校長先生が言った
「きょうは 勝利の日だ
みんなで フランス万歳を言おう」
おれには 何もわからなかった
校長先生はつづけた
「敵は敗れた
祖国は解放された
たくさんのひとが 国のために戦った
たくさんのひとが 死んだ
戦場で 戦死した
たくさんの黒人も死んだ」
おれには 何もわからなかった
だが 学校が休みになって うれしかった
おれは考えた
「なぜ 大人たちは戦ったんだろう
なぜ 死んだんだろう
なぜ 戦争が起こるんだろう?・・・」

村じゅうが お祭りだった
みんなが歌をうたって 練り歩いていた
村長が 鉄砲を数発ぶっ放した
それが 祝いの合図だった
家では 飲んだり食べたりした
戦争に行きもしないのに
みんなが戦争の思い出話をしていた
おれには 何もわからなかった
フランス軍の魔法使いのような司令官
G将軍の話が出た
ヒットラーの話も出た
ルクレルクの話も出た
ほかの名前も飛び出した
イタリィ軍は ぶっつぶれたそうだ
おれたちは 何か砂糖のはいったものを飲まされた
それはいったいどういう訳だろう?
おれには 何もわからなかった
だが おれはうれしかった
おれは 砂糖水を飲んだ
「また戦争が起きて 終ったら
おれたちは 砂糖水が飲めるのかなぁ?」
従兄弟(いとこ)が言った
眼鏡をかけた小父(おぢ)さんが
いとこの頬に 平手打ちをくらわした
「ちび よく聞けよ
戦争がどんなものか 知らねえくせに
おまえは 戦争がしてえのか・・・
戦争っていうのはなぁ
人間が けだもののようになって
怖ろしい本能をむき出しにすることなんだ
罪もない貧乏人たちが
ほかの罪もない貧乏人たちと戦い合って
死んでゆくことなんだ
戦争ってのは
空きっ腹をかかえて 惨めなもんだ
大人たちは 名誉を重んじて
死んでゆく
女どもは 亭主を失くし
おふくろは 息子を失くす
おまえの兄のジケも戦死したんだ
戦争ってのは こういうもんだ
これ以外のものではないので」
そこで おれは自問した
それが戦争だったら
いったい なぜ 戦争をやったんだろう
なぜ 黒人も戦争に行ったんだろう
どこに 黒人の祖国があったんだろう
・・・第一線に立つという名誉のほか
黒人には なんの得にもならなかったのに
おれには 何もわからなかった

タムタムは また鳴り始めた
だが 以前ほどすばらしくはなかった
力強くもなかった
タムタムのすばらしい打ち手はもういなかった
みんな戦争に出て行って
戦争で死んでしまったのだ
きょうもまた おれはつぶやく
戦争って 何だろう?
そして 暗い気持ちで自分に言うのだ
「眼鏡の小父さんの言ったのは
まちがってはいなかった」


(自筆原稿)
燃えるタムタム 1

陽が沈んで
夜になる
月がのぼり 星が出る
するとアフリカは息きづく
アフリカは 夜を愛でたりはしない
アフリカは 夜を生きる 夜を息きづかせる
生きとし生けるものが 目を覚ます
蟋蟀(こおろぎ)が鳴く
梟(ふくろう)が不気味に啼く
蟇(ひきがえる)が トロンボーンをひびかせる
それは アフリカの深い夜を告げる
奇妙な序曲だ 協奏曲なのだ

自然と人間とが 手を握りあい 抱き合って
神秘なアフリカを創り出す・・・
蛇の歯を崇(あが)める 拝物教徒たちのアフリカを
祖先たちとともに
雷をとらえる魔法使いたちのアフリカを

それは やはり息きづいて語りかけるアフリカだ
  アフリカは 死にはしない
  死にたくはない
  アフリカは 熱く燃えている
その身ぬちを駆けめぐる火は 手にほとばしり
タムタムを打ち叩くのだ
  タムタムの叫び
  絶望の叫び
  郷愁の叫び
  タムタムの叫び
  生命と歓喜の叫びを

タムタムは 燃える
その火は 焼きはしない
熱く燃えたたせるのだ
  タムタムの叫びを
  生命(いのち)がけで吠える 黒い人間の叫びを
雷がとどろこうと
風が 唸(うな)ろうと
嵐が 吹き荒れようと
火は 消えはしない
タムタムは 黙りこみはしない

アフリカは 生きているからだ

(アフリカの詩 自筆原稿)

アンゴラの詩

出発まぎわのさようなら

                アゴスチニョー・ネトー 大島博光訳

おっ母さん
おっ母さんは おいらにさとしてくれた
希望を抱いて じっと待ってろ と
苦しい時に 自分でもそうしてきたように 

だが おいらの
そんな あやしげな希望なんかを
みじめな暮しが ぶちのめしてしまった

おいらはもう じっと待ってなんかいるものか
みんなが おいらの方を待っているんだ

ほんとうの希望ってのは おいらなんだ
まっとうな暮しをとりかえすために
たたかいに出かけて行った
あんたの子どもたちなんだ

おいらは 未開の植民地の 裸かの子どもだ
まひるの土手のうえで
ぼろきれのボールで遊ぶ
学校もない 餓鬼どもだ
そのおいらまでが
焼けつくようなコーヒー畑でこき使われ
白人をうやまい
金もちどもをこわがらねばならねえ
いっぱしの黒人なんだ

おいらは 電気もつかねえ
黒人部落の子どもだ
おとなどもは 死にもの狂いの
太鼓のリズムで 踊り狂って
やけ酒に酔いつぶれている
あんたたちの子どもは
すきっ腹で ひもじいんだ
のどが かわいているんだ
あんたを おっ母さんと呼ぶのが
恥かしいんだ
町中を通るのが こわいんだ
大人たちが 恐ろしいんだ

だが おいらこそ
まっとうな暮しをとりかえす
希望なんだ

 アゴスチニョー・ネトー ──一九二二年アンゴラに生れる。リスボンで医学を学んだのち、アンゴラとポルトガルの新聞雑誌に詩を発表している。

(自筆原稿)
 おれはどこにいるか
                   カリュンガーノ 大島博光訳

おれを 探しまわるな
おれのいない場所で

おれは 生きてるのだ
大地に身をかがめて
むきだしの背中を
  鞭で追いたてられて

おれは 生きてるのだ
港湾で
ボイラーに石炭を投げこんで
ひとびとの歩く道の上に
機械を走らせて

おれは 生きてるのだ
おふくろの からだの中で
じぶんの肉を売りながら
  おれの性(セックス)は
  愛のためにあるのではない

おれは 生きてるのだ
おれを 憎悪で
  情容赦もなく
    たたきのめす文明国の
    街まちを流れ歩いて

もしも誰かが おれの声をきいたなら
まだ おれが歌っていたなら
それは おれがまだ死ねないからだ
  だが おれの苦しみをきいてくれるのは
     お月さんだけだ

ここ アメリカにも
そうだ
そこにもまた おれがいるんだ
そこでも おれは生きてるのだ

しかし リンカーンは
暗殺されてしまった
おれは
  おれは
毎日 リンチをうけている

すばらしい速さで つっ走る
あの特別列車は
おれが 数百年も流してきた
血と
  金でつくられているのだ

それなのに
どうして おれを探すのだ?
ベートーベンの『栄光』の中などに

おれは ここにいるのだ
いたるところの 波止場の
船倉から立ちのぼる
千万の呻めき声のなかに
おれは 突っ立っているのに

ロブソンやヒューズの声の中に
ゴディドールや ブラック・ボーイの
セガールや ギリエンの声のなかに
おれは
  ぴんぴんしているのに
この人たちは
大地の胎内からよみがえって
おれのからだで
生活の土台を変えたのだ

生活の土台
おれは そこにいるのだ

おれは
死を拒否する生の詩を
夜の果てと
  日の出との詩を
意識的に 不屈に
つくりあげた人たちの総和なのだ

 カリュンガーノ──一九二九年モザンビークに生れる。パリに遊学。

(自筆原稿)