Pablo Neruda "大いなる歌" Canto General

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千曲川

大島博光記念館へようこそ。
長野詩人会議が中心となって建設運動をすすめ、2008年7月にオープンしました。
愛と抵抗を歌った博光の詩の世界にふれていただけます。


   逃亡者 Ⅲ

  あるとき おれはやみ夜にまぎれて歩いていた
  アンデスの夜は 町をよぎってきて
  あたりにひろがり おれの服のうえに
  黒いばらを咲かせた
  「南部」は 冬のさなかだった
  雪がふかくつもり
  寒さは 凍った無数の針先ではだを刺した

  マポチョ川は 黒ぐろと雪の中を流れていた
  おれは 静まりかえった通りから通りへと
  圧制にいためつけられた町を歩いていった
  おれはまるで 沈黙そのもののようだったが
  愛情があとからあとから眼の前にあらわれ
  おれの眼をとおって 胸のなかにしたたり落ちた
  なぜなら この通りも あの通りも
  雪をかぶった夜の戸にも
  夜のなかの ひとびとの孤独な暮しも
  さびれはてた場末に追いこまれた
  みじめな人民も
  ほの暗いともしびをともした最後の窓も
  黒いさんご礁(しょう)のような家家も
  あたりを吹き荒れる風までも
  すべてがおれの味方だった
  すべてが 静けさのなかで おれの方に
  愛情にみちたくちびるを寄せてきたのだ

(『ネルーダ詩集』角川書店 S47)

雪
  逃亡者 Ⅰ

 はてしもない夜のなかを この世界のなかを
 あの暗い日日 わたしは 歩きつづけた
 涙を紙に書きつらねて 身をやつし姿を変えて──
 わたしは 警察に追われる お尋ね者だった
 透きとおった 夜ふけ
 孤独な星のまたたく 大空のしたを
 わたしは 町町をよぎり 森を抜け
 畠のなかを歩き 港町を通り
 戸口から 戸口へと
 ひとの手から 手へと 渡り歩いた
 夜は つらいものだ しかしひとびとは
 兄弟の合図を送ってくれた
 わたしは やみくもに
 道から道を通り くらやみを抜けて
 明りのともった戸口に たどりつき
 小さな星のようなともしびに迎えられ
 森のなかの狼に 食われずに残っていた
 ひとかけらのパンに ありついた

 あるとき 田舎の一軒の家に
 わたしは 深夜 たどり着いた
 わたしは その家のひとたちに一度も会ったことはなかったし
 かれらが 何をして生きているのか
 見当もつかなかった その時の.かれらは
 わたしの見知らぬ 新しいものであった
 わたしは家の中に入った 家族は五人だった
 まるで 火事の夜のように
 みんな 起きていた
 わたしは ひとりひとりの手を握った
 ひとりひとりの顔を見た
 それらの顔は なんにもわたしに話しかけなかった
 それは 街通りでも見かけたことのないような
 扉だった
 かれらの眼は わたしを知らなかった
 こうして 夜ふけに 着くやいなや
 わたしは ひどい疲れに くずおれてしまった
 ──「おやすみ わが苦しむ祖国よ」

 眠っているあいだも
 地上の もろもろのこだまや
 しゃがれた吠(ほ)え声や 孤独なもの音が
 夜どおし つづいていた
 そしてわたしは考えた 「おれはどこにいるのだろう?
 あのひとたちは 何ものなんだろう?──
 どうして きょう おれを泊めてくれたのだろう?
 いままで わたしに会ったこともないこの人たちが
 どうして扉をあけて迎えいれ おれの歌を守ってくれるのだろう?」
 誰も答えてはくれなかった
 ただ 木の葉の散る 夜の音がきこえ
 蟋蟀(こおろぎ)が うたを織っていた
 夜ぜんたいが
 木の葉の茂みの中で顛(ふる)えているように思われた
 夜の大地よ おまえは わたしの窓べに
 わたしの方へ そのくちびるを寄せてきた
 千の木の葉に迎えられつつまれたように
 わたしが やすらかに 眠れるように
 季節から季節へ ねぐらからねぐらへ
 枝から枝へと そしていつかいきなり
 おまえの根のなかに 死者として眠りこむのだ

(『ネルーダ詩集』角川書店 S47)

*上院議員だったネルーダが1948年1月、大統領ヴィデラの裏切りを上院で弾劾すると、ヴィデラは逮捕令状と投獄をもってネルーダに答える。2月5日、最高裁判所はネルーダの上院議員特権を剥奪し、翌日には逮捕令状が出された。ネルーダは地下生活に入らざるを得ない。一年二ヶ月のあいだ、かれは絶えず住居を変えて身をかくし、そのあいだに『大いなる歌』を書きつづける。

ネルーダ
馬に乗ってアンデスを越えるネルーダ


 きこりよ めざめよ

   カペナウムよ どうしておまえが天に上げられることがありえよう
   おまえは地獄にまで落とされるのだ ルカ伝十章十五節

     Ⅰ

コロラド河の西に おれの愛する土地がある
そこに おれは駆けつけるのだ
おれの身ぬちを 脈うちながら流れるもの
おれの過去と現在と おれの背負っているすべてをもって
あそこには 荒い野の風が千の手でつくりあげた
赤い岩山が 高い足場のようにそそり立ち
奈落の底からほとばしり出た真っ赤なものが
岩山のなかで鋼となり火となり力となった
水牛の皮のようにひろがったアメリカよ
かなた 星の降る高地めざして 駆けてゆく
かろやかな 澄んだ夜
おれはおまえの緑の露のさかずきを飲む
そうだ 荒あらしいアリゾナとごつごつしたヴィスコンシンをとおり
風と雪にたち向うミルウォーキーまで
あるいは ウェスト・パルムの灼(や)けつく沼地を
また タコマの松林のほとり
濃いはがねの匂いのする おまえの森のなか
母なる大地をぬって おれは歩いて行った
青い茂みをぬけ 滝にうたれる岩をわたり
音楽のように鳴りどよもす嵐をきき
修道院の祈りのような 川のせせらぎを耳にし
あひると林檎(りんご)と 土と水とのほとり
小麦をそだてる はてしない静けさのなかを
おれは歩いた

さて おれは中央の岩山から
眼と 耳と 手を大空にさしのばし
耳をそばだてて聞いた
書物 機関車 雪 たたかいを
工場 墓地 野菜畑 足音を

マンハッタンからは 船のうえの月を眺め
糸をつむぐ紡績機(ぼうせきき)の歌をきき
土をくらいこむ巨大な鉄のスプーンや
禿鷹のような頸をした掘削機(くつさくき)や
切断し 圧搾し 回転し 縫いあわす機械のひびきをきき
くりかえし生産する人びとと車輪の音をきいた

わたしは 小さな百姓家が好きだ
産後の女たちが漬けたタマリンドのような
甘酸っばい匂いをただよわせて眠っている
敷布にはアイロンがかかっている
玉ねぎ畑のなかの家家では火が燃えている
(川のそばでうたう男たちは
川底をころがる石のように しゃがれた声をしている
かれらは広い葉っぱから自分でつくった煙草に
かまどのまわりで 火をつけた)
ミズーリ州へ行って 見るがいい
チーズと小麦粉を
黒びかりのするテーブルは よい香りをたてている
男が 麦畑で働いている
馴らされたばかりの若駒は
パンとうまごやしの匂いをふりまいている        
鐘楼があり ひなげしがあり 鍛冶屋(かじや)がある
そうして鬱蒼と茂った森のなかでは
愛が そのあごをひらいている
大地から生れた夢のなかで

北アメリカよ おれたちが愛するのは
おまえの仮面ではなく おまえの平和だ
おまえは美しくて ひろびろとしている
戦うおまえの顔は うつくしくはない
おまえは おまえの川岸で洗濯をする
白人の女のように 貧しい生れなのだ
おまえのやさしさ おまえの蜜のような平和は
いつともわからぬ遠い時代につくられた
おれたちが愛するのは オレゴンの泥で
手を赤く汚した男だ
象牙の国の音楽を
おまえの処へはこんできた黒人の少年だ
おれたちが愛するのは おまえの町だ
おまえの富 おまえのひかりだ
西部の開拓精神だ
蜂蜜のとれる平和な村だ
トラクターの上のたくましい若者だ
おまえがジェファソンからうけついだ
からす麦の畑だ
海のようにひろいおまえの大地を
地ひびきをたてて つっ走る列車の車輪だ
煙をはく工場と 新しい開拓地での
千番目のくちづけだ
おれたちが愛するのは おまえの労働者の血と
油だらけの人民の手だ

もう遠いむかしから 大草原の夜空の下
静まり返った水牛の皮の上には
おれたちの生れる前にいたひとたちの
言葉や歌が鳴りひびいていた
メルゲィルは 海べの松だ その枝から
龍骨と腕木といっそうの舟が生れた
穀物のように数かぎりもないホイットマン
暗い数学にとじこもったポオ
ドライサー ウルフ
かれらは おれたちの生れる前のなまなましい傷口だ
また近くはロックリッジが 土の奥に葬られ
そのはか どんなに多くのものが
くらやみのなかで眠っていることか
かれらの上にも 半球のおんなじあけぼのが赤く燃えている
かれらこそ いまあるおれたちをつくったのだ
権勢をほこった王子たちや
眼さきのきかぬ愚かな指導者たちも
さまざまな出来事や うつろう季節のあいだで
あるときは恐怖におののき
あるときはよろこびにふるえ
また死の悲しみにうちひしがれ
いまは 隊商のいきかう草原の下に眠っている
その頃は ほとんど足を踏みいれるものもなかった
暁野のなかにも
罪もないのに迫害されたひとたちや
汗みずたらして草原をきりひらいた先駆者など
どんなに多くの死者たちが眠っていることか

フランスから 沖縄から レイテ環礁から
吹き狂う風のなかを 海を越えて
ほとんどすべての若者たちが帰ってきた
ほとんどすべての………この泥と汗の物語は
なんとも つらくにがにがしいものだった
(ノーマン・メーラーはそれを書きとめた)
若者たちは 岩にくだける波の音も
ろくすっぽ聞かなかった
花の咲きこぼれた明るい島島に辿りついたものも
ただ そこで死ぬためだった
血と汚物が 垢(あか)と鼠が
いつもかれらにつきまとい
すさんで疲れきった心が戦っていた
それでもかれらは帰ってきた
おまえは ひろびろとした大地に迎えいれた
そしてかれら(帰ってきたものたち)は
名もない無数の花びらの閉じるように
おのれの家にとじこもった
戦争の傷ぐちを忘れて よみがえるために

(角川書店『ネルーダ詩集』1972年)

基地

 きこりよ めざめよ Ⅵ (平和の歌)
                          パブロ・ネルーダ

日ごとに訪れる 夕ぐれに 平和あれ
橋のうえに 平和あれ 洒に 平和あれ
わたしの使う言葉に 平和あれ
そしてわたしの胸にのぼってきて
土の匂(にお)いと愛にみちた 古いむかしの歌を
くりひろげてくれる 言葉に 平和あれ
パンの匂いで眼がさめる
朝がたの都会(まち)に 平和あれ
たくさんの川を集めた
ミシシッピー河のうえに 平和あれ
わたしの弟の シャツに平和あれ
風が書いて行ったような本に 平和あれ
キエフの 大コルホーズに 平和あれ
ここかしこで仆れた 死者たちの灰のうえに 平和あれ
ブルックリンの 黒い吊り橋のうえに 平和あれ
陽ざしのように 家から家へとまわる
郵便配達のうえに 平和あれ
ひるがおのような バレーの舞台で
叫んでいる振りつけ師のうえに 平和あれ
ロザリオのことばかり書きたがる
わたしの右手に 平和あれ
錫(すず)鉱のように ひそんでいる
ボリヴィア人に 平和あれ
きみがおよめに行けるように 平和あれ
ビオビオのすべての製材所に 平和あれ
スペイン・ゲリラの
ひき裂かれた心臓に 平和あれ
そこでは ハートの刺繍(ししゅう)のある座布団が
いちばん なつかしい
ワイオミングの小さな博物館に 平和あれ
パン屋と かれの愛に 平和あれ
小麦粉のうえに 平和あれ
やがて芽を出してくる麦に 平和あれ
茂みを探す 恋びとのうえに 平和あれ
生きとし生けるものに 平和あれ
すべての大地と 水のうえに 平和あれ

さて わたしはここで いとま乞いをして
夢にまで見たわが家に 帰っていこう
荒い風が 牛小屋を叩きつけ
流氷が 海にながれ ただよう
パタゴニアに 帰っていこう
わたしは 一介の詩人だ あなたがたみんなが好きだ
わたしは 愛する世界(くに)を さまよって行こう
わが祖国では 坑夫たちが 牢獄にぶちこまれ
軍人どもが 裁判官をあごで使っている
しかしわたしは この寒くて 小さい
わが国を 根っこまで 愛しているのだ
もしも 千回 死ねるとしても
わたしはやはり そこで死にたい
もしも 千回 生まれ変われるとしても
わたしはやはり そこに生まれたい
あの未開のアラウコ族のそばに
南極の風が 猛り狂うところ
教会の鐘楼が 新しく建てられたばかりのところに
だれもわたしのことは気にかけないでほしい
愛のこぶしで テーブルを叩きながら
この地上のことを考えようではないか
わたしは ふたたびパンが血まみれになり
いんげん豆が赤く血に染まり
音楽が血を浴びることを ねがわない
わたしのねがいは
坑夫も 娘さんも
弁護士も 舟乗りも
人形作りも みんな
わたしといっしょに来てくれることだ
われわれはみんなで映画館にはいろう
そして映画がはねたら
赤い葡萄酒を 飲もうではないか

わたしは何も問題を解決しにきたのではない
わたしはここに 歌うために きたのだ
きみたちといっしょに歌うために──

 『きこりよ めざめよ』の最後の章は、平和の歌によってしめくくられている。戦争によってぼろ儲けを企む、ひとにぎりの死の商人とは逆に、働くすべての人民は、平和をこころから願っている。詩人は「わたしの信条は 平和と希望なのだ」とも語っている。
(大月書店『愛と革命の詩人ネルーダ』─「きこりよ めざめよ」)

ネルーダ


「きこりよ めざめよ」について
ネルーダ「大いなる歌」目次
エィブラハム・イエズス・ブリトオ(人民の詩人)
                            パブロ・ネルーダ/大島博光訳

かれの名はイエズス・ブリトオといい イエズス・パロンといい
かれの名は 人民と呼ばれる
かれの眼は 川となり
かれの手は 根となり
いま かれのいた同じ場所に
生れる前 土から躍り出る前に
貧しい石ころたちのあいだに
かれは植え変えられるのだ

かれは 坑夫と漁師とを結びつける
結びの鳥であり
怖るべき祖国の 優しい樹皮を編む
素朴な 馬具製造人であった
祖国が 寒ければ寒いほど
祖国は かれに青く見えた
土地が 荒れていればいるほど
かれには 幻想的に見えた
かれは 飢えれば飢えるほど 歌った

かれは 葡萄(ぶどう)の蔓(つる)の竪琴と 鍵で
鉄道の世界をひらき
かれは歩いた 祖国の泡をよぎって
星ちりばめた 小さな荷物をもって
銅の木であったかれは
すべての新しい 小さなつめくさを水でうるおした
かれは敵にとって 怖るべき罪悪であり 騒乱であり
人民を守る流れの前進であった

かれの声は 犯罪の夜のなかに消えた
しゃがれた 叫び声にも似ていた
かれは 谷川のようにひびく鐘を
夜 帽子のなかに拾い集めた
ぼろぼろの袋のなかには
溢れこぼれた人民の涙を すくい集めた
かれは歩いた 水たまりのある砂利道を通って
茫茫(ぼうぼう)とした硝石の原をよぎり
沿岸地方の波うつ丘を越え
愛の歌を一節また一節とつくり
一句一句 念入りに手を入れ
自分の手の汚点(しみ)や
まちがった綴りを取りのぞいた

ブリトオよ きみは首都の城壁をくぐり
騒がしいカフェーのあいだを抜けて
まるで巡礼する木のように
きみの深い足を置く土地をもとめて歩き
ついにきみは みずから根っこになった
石ころとなり 土くれとなり ほの暗い鉱石となった

ブリトオよ きみの偉大さは
誇り高い太鼓のように
手荒に うち叩かれた
並木道と人民から成る きみの領土は
ひろびろとした 野外の王国であった

さまよう木よ きみの根は
きょうも大地の下で 声なく 歌っている
きみは きょうも さらに深く根をはり
きょうも きみは 大地と時代を抱きしめている

<『ネルーダ詩集』──大いなる歌 第二巻>
どのようにして旗は生れたか

おれたちの旗はいつもこんな風にして生れた
人民が やさしい心で縫いとりをし
ぼろぼろに破れた旗を
苦しみで 縫い合わせた

人民は 燃える手で しっかりと星をちりばめた

人民は シャツや空の青を切りとって
祖国の星を 仕たてあげた

赤旗は 一滴また一滴と
血をしたたらせて 生れたのだ

(パブロ・ネルーダ『大いなる歌』第二巻)
虐 殺


しかし 血はそのとき隠された
(根っこの背後で 血は洗い流され
血は流れなかったと言いふらされた
それは そんなにむかしのことだった)
「南部」の雨が 大地から血をおし流し
(それは そんなにむかしのことだった)
草原の硝石が 血を飲みほしてしまった
そして人民の死は いつもどおりのものだった
まるで 死んだものはだれも ひとりもいないようであり
まるで 大地に仆れたのは あの石ころどもであり
水が 水のうえに流れ落ちたようなものだった

「北部」から「南部」にいたるまで
かれらは 死者たちを おしつぶし
死者たちを 焼いて 闇のなかに葬り

夜にまぎれて そっとかたづけ
炭坑の穴のなかに 投げ込み
骨は 海に投げ捨て
こんにち あの死者たちはどこにいるのか
だれも知らない
あの人たちには 墓もなく
あの人たちは 祖国の根っこに散らばっている
指は拷問(ごうもん)でひんまがり
心臓は鉄砲弾丸(だま)で穴があき
チリ人の微笑を浮べている
草原の勇者たち
いまは声もない指導者たち

人殺しどもがどこに死体を埋めたか だれも知らない
だが 死者たちは大地から出てきて
流した血を とりもどすだろう
人民の復活において

犯罪はラ・プラサのどまんなかで行われた
人民の清らかな血を 茂みは隠さなかった
草原の砂も 吸わなかった
だれも この犯罪を 隠さなかった

犯罪は 祖国のまんなかで行われたのだ


(パブロ・ネルーダ『大いなる歌』第二巻)

 ラ・プラサの死者たち
   (一九四六年一月二十八日 チリのサンチアゴ)

かれらが仆(たお)れたところへ
おれは 泣きにやって来たのではない
おれは きみたちのところへやって来たのだ
生きてる人たちのところへ 駆けつけたのだ
きみのところ おれのところへ駆けつけて  
きみの胸倉(むなぐら)をたたくのだ

あの人たちは ずっと前に仆れてしまった
きみは思い出さないか そうだ 思い出すだろう

あの人たちは おんなじ姓名をもち
おんなじ名まえをもっていた

サン・グレゴリオで 雨の降るロンキメエで
風に吹き倒された ランキルで
砂に埋まった イキケで
海と砂漠のほとりで
群島の草原の
煙りと雨の下で

あの人たちは 虐殺(ぎゃくさつ)された
あの人たちは きみのように アントニオと呼び
きみのように 漁師であり 鍛冶屋(かじや)であった
あの人たちは チリの肉であり
その顔は 風で皺(しわ)だらけになり
草原に痛めつけられ
苦痛にゆがんでいた

おれは出会った 祖国のいたる処の壁のうえで
雪とその水晶のそばで
みどりの流れのかなたで
硝石の下 穂麦の下で
わが人民の流した血の滴(したた)りに
そうして滴(したた)りはみな 火のように燃えていた


『大いなる歌』第二巻)

 マニュエル・ロドリゲス
                           パブロ・ネルーダ

  生

おばさんよ みんな言ってるよ
おふくろよ みんな言ってるよ 言っていたよ
川も風も 言ってるよ
みんなが ゲリラを見たって

きっと牧師さんかも知れないね
あるいは そうじゃないかも知れないね
きっと ただ 風なのかも知れないね
雪のうえを吹いてきたんだ
そうだ 雪のうえを吹いてきたんだ
おふくろさんよ 見ない方がいいよ
マニュエル・ロドリゲスが
馬を飛ばして 来るからだ

ゲリラはやってくるのだ
海べづたいに


  受 難

メリピラから忽然と姿をあらわし
タラガンテの方へ馬をすすめ
サン・フェルナンドをよぎり
ポメールに立ち
ランカグアを通り
サン・ロザンドを通り
カウケネスを シヤナを
ナチミエントを
そうだ ナチミエントを通り
シニクを通り
マニュエル・ロドリゲスは
どこからでも やってくる

この卵を かれに渡せ
かれといっしょに行こう

  死

ギターも音をたてるな
国じゅうが 喪なのだ
おれたちの大地は暗くなった
やつらは ゲリラを殺した

ティル・ティルで 人殺しどもは
かれを殺した
かれの刀が血まみれだ
道のうえに
そうだ 道のうえに
だれが信じょう
それが おれたちの血であり
おれたちの喜びであったひとの血だとは

大地が泣いている
おれたちは 声も出ない


(『ネルーダ詩集』──「大いなる歌──解放者たち」)

 ソコッロの蜂起者たち


(圧制者の法律を 破り棄てて
「暴君に死を」と叫んで)
わが国に 新しい種子を蒔(ま)いたのは
マニュエラ・ベルトランだった
それは ヌェヴァ・グラナダの
ソコッロの町においてだった
蜂起(ほうき)者たちは 圧制を倒そうと呼びかけて
王国を ゆさぶった

かれらは 独裁に反対し
汚れた特権に反対して 団結し
当然の権利を与えろと
要求書を ふりかぎした
かれらは 武器と石をもって団結し
民兵と女たちから成る民衆は
隊伍を組んで 意気さかんに
ボゴタとその貴族領のうえを前進した

そのとき 大司教がやってきた
「おまえたちの要求はかなえられるだろう
神の御名(みな)にかけて わしが約束する」

ふたたび 民衆が 広場に集まった

大司教は 厳(おごそ)かにミサをおこない
神にかけて 誓いをたてた

かれは民衆にとって 平和であり正義であった
かれは命令した 「さあ 武器を捨てて
みんな それぞれの家にもどるがよい」

蜂起者たちは 武器を捨てた
ボゴタの支配者たちは 大司教をよろこび迎え
いつわりのミサをとりおこなった
その背信と 裏切りとをほめたたえた
かれらは パンと権利を与えることを拒否し
首謀者たちを銃殺し
切り落した その生首を
村村に送って さらし首にした
同時に 司教の祝福を
村村に伝えることも忘れなかった
そして国じゅうで舞踏会を催した

わが国に蒔かれた
最初の重大な 種子よ
あなたがたは 敵意にみちた夜のなかで
穂のような人民の蜂起を
ひそかにうながしつづけているのだ
あなたがた 眼も見えぬ立像たちよ

(『ネルーダ詩集』──「大いなる歌──解放者たち」)
 インカの最期
            
断末魔は カハマルカ*1で始まった             
青い蕊(しべ) 秀(ひい)でた樹木 若きアタワルパ*2は
風の便りに ざわめく鉄の音をきいた
得体の知れぬ閃光が
海の方で 揺らめいていた
それは 草原のなかで 地面を蹴あげる
強力な騎馬の一隊であった
隊長たちが到着した
インカは 貴族たちに囲まれて
奏楽のなかを出てきた
ほかの星からやってきた 汗くさい
ひげを生やした訪問者たちが
敬礼をささげにきた
腐った山犬 心よこしまな神父ヴァルヴェルデ*3は
一切れの寵細工(かございく)のような奇妙なもの*4を差し出す
それは あの軍馬がやってきた
ほかの星の木の実ででもあったのか
アタワルパは それを手にとるが
どうするものか わからない
それは輝きもしなければ 音もたてない
かれは微笑(ほほえ)みながら 地に投げ捨ててしまう
『死だ 復讐だ 殺せ
わしが許すぞ』
山犬が 人殺しの十字軍に叫んだ
命令は雷鳴のように兵隊どもに伝わった
われわれの血は 揺藍(ようらん)の中にとび散った
この瞬間にも 皇子たち*5は 聖歌隊のように
断末魔のインカをじっととり巻いていた

剣と十字架のもとに
百千のペルー人が仆(たお)れた
血は アタワルパの服を濡らした

冷酷なエストレマドラの豚飼い ピサロ*6は
インカの両手を綴りあげた
夜がペルーの上に降りてきた
まっ黒い墨のように

*1 カハマルカ ペルー北部の都。ピサロはここに宿営を置き、一五三二年十一月十六日、アタワルパ皇帝をおびき出す。
*2 アタワルパ インカ帝国最後の皇帝。
*3 ヴァルヴェルデ 従軍神父ビセンテ・デ・ヴァルヴェルデは片手に聖書、片手に十字架をもってアタワルパの玉座に近づいて、キリスト教に改宗するように申し入れる。
*4 奇妙なもの 聖書を指す。
*5 皇子たち 異母兄弟のワスカルを指す。このワスカルとアタワルパの内紛を利用して、ピサロはインカ帝国を征服することができた。
*6 ピサロ フランシスコ・ピサロ。南スペインのエストレマドラ地方のトルヒーヨという村に生れ、豚飼いとして少年時代を過す。

(角川書店『ネルーダ詩集』──「大いなる歌」)

   ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇ 
 強大を誇ったアステカ王国やインカ帝国も、スペイン征服者たちの攻撃にあうと、一瞬のうちに崩壊し去った。
 一六世紀このかた、南アメリカ諸国の人民にのしかかった不幸と悲劇ほど言語に絶したものはない。とりわけインカ帝国崩壊の歴史ほどに、スペイン征服者の残虐さと非道な収奪を物語っているものはない。
 一五三二年一一月一五日、スペインの豚飼いフランシスコ・ピサロは、歩兵一一〇名、騎兵七六名の手勢を連れて、ペルー北部のカハマルカに着いた。そこには若きインカ皇帝アタワルパが軍を進めて滞在していた。ピサロはアタワルパの陣営に便者を送り、腹黒い陰謀をかくして「スペイン軍はキリスト教をひろめるための平和使節である。皇帝のご協力を乞い願いた
い」という書面を提出し、内乱の平定に助力することを約束した。その答礼として、アタワルパは武器をもたない部下を連れて、ピサロを訪問する。ピサロはこのとき初めて披の意図を部下にもらし、兵力を配置して、アタワルパを瞬間のうちに生捕りにする。
 ネルーダは、この悲劇を「インカの最期」のなかに描いている。胸えぐるような悲壮なしらべで。

(『パブロ・ネルーダ』──『大いなる歌』)
ネルーダ『大いなる歌』 目次 Pablo Neruda " Canto General"

I. 地上のランプ  La lámpara en la tierra; A Lamp on Earth
Ⅱ. マチュピチュの高み  Alturas del Macchu Picchu; Heights of Macchu Picchu
Ⅲ. 征服者たち  Los conquistadores; The Conquerors
Ⅳ. 解放者たち  Los libertadores; The Liberators
V. 裏切られた砂   La arena traicionada; The Sand Betrayed
Ⅵ. アメリカ、無駄に名前を呼び出すな  América, no invoco tu nombre en van
Ⅶ. チリの大いなる歌   Canto general de Chile
Ⅷ. 土地はファンと呼ばれている  La tierra se llama Juan; The land is called Juan
IX. 木こりよ めざめよ  Que despierte el leñador
X. 逃亡者   El fugitivo 
XI. プニタキの花  Las Flores de Punitaqui
XII. 歌の河  Los ríos del canto
XIII. 暗闇の祖国のための新年の合唱  Coral del año nuevo para la patria en tinieblas
XIV. 素晴らしい大洋  El gran océano
XV. わが来歴  Yo soy; I am

詩集『大いなる歌』はラテン・アメリカ詩ばかりか、世界詩の傑作のひとつである。一九七一年のノーベル文学賞はネルーダに授与されたが、それも『大いなる歌』に与えられたとも言えるだろう。
 ネルーダが『大いなる歌』の構想をいだいたのは一九四三年の秋、メキシコからの帰国の途中、グアテマラやペルーのマチュ・ピチュ大遺跡などを歴訪してのことである。一九四五年には第一章の「地上のランプ」と第二章の「マチュ・ピチュの高み」ができあがり、この詩集が刊行されたのは一九五〇年である。
 『大いなる歌』においては、題名の示すように、全般的・全体的な世界がうたわれ、あらゆる主題が追求されている。そこには、新大陸の創世記・大自然の地理、動物、植物がうたわれ、南アメリカ諸国と諸国人民のいりくんだ民族の歴史、スペインの征服者たちに反抗してたたかった戦士たち、解放者たちの英雄像などがうたいこめられている。この詩集はまさに新大陸のエンサイクロペディアであり、その宇宙創生史である。そしてこの詩集の偉大さは、アメリカ諸国人民の解放と自由を声高く、また声深く呼びかけているその壮大なスケールにある。

<全部の目次>

  Canto general                       Pablo Neruda

- I -  La lámpara en la tierra   地上のランプ
Amor América (1400)  アメリカを愛す(1400)
Vegetaciones  植生
II
Algunas bestias  獣
III
Vienen los pájaros 鳥が来る
IV
Los ríos acuden  河川は来る
Orinoco オリノコ川
Amazonas アマゾン
Bío-Bío パンジャブ
Minerales  鉱物
V
Minerales  鉱物
VI
Los hombres  人間たち(アステカマヤインカ

- II -  Alturas del Macchu Picchu   マチュピチュの高み
I
Del aire al aire, como una red vacía,
II
Si la flor a la flor entrega el alto germen
III
El ser como el maíz se desgranaba en el inacabable
IV
La poderosa muerte me invitó muchas veces:
V
No eres tú, muerte grave, ave de plumas férreas,
VI
Entonces en la escala de la tierra he subido
VII
Muertos de un solo abismo, sombras de una hondonada,
VIII
Sube conmigo, amor americano.
IX
Águila sideral, viña de bruma.
X
Piedra en la piedra, el hombre, dónde estuvo?
XI
A través del confuso esplendor,
XII
Sube a nacer conmigo, hermano.

- III -   Los conquistadores   征服者たち
I
Vienen por las islas (1493) 彼らは島々に来た
II
Ahora es Cuba   今、キューバは
III
Llegan al mar de México (1519) メキシコの海に達する(1519年)
IV
Cortés
V
Cholula
VI
Alvarado アルバラド
VII
Guatemala グアテマラ
VIII
Un obispo 司教
IX
La cabeza en el palo  
X
Homenaje a Balboa バルボアへのオマージュ
XI
Duerme un soldado 眠る兵士
XII
Ximénez de Quesada (1536) ヒメネス·デ·ケサダ(1536)
XIII
Cita de cuervos カラスの引用
XIV
Las agonías 苦しみ(インカの最期)
XV
La línea colorada  レッドライン
XVI
Elegía エレジー
XVII
Las guerras ウォーズ
XVIII
Descubridores de Chile チリの発見
XIX
La tierra combatiente   陸上戦闘機
XX
Se unen la tierra y el hombre 土地と人間との間に
XXI
Valdivia (1544) バルディビア(1544)
XXII
Ercilla エルシー
XXIII
Se entierran las lanzas  ランスは、埋葬されている
XXIV
El corazón magallánico (1519)  マゼランの心臓(1519年)
Recuerdo la soledad del estrecho
Los descubridores aparecen y de ellos no queda nada
Sólo se impone la desolación
Recuerdo al viejo descubridor
Magallanes
Llega al Pacífico
Todos han muerto
XXXV
A pesar de la ira

- IV -   Los libertadores   解放者たち
Los libertadores 解放者たち(人民の木)
Cuauhtemoc (1520)
II
Fray Bartolomé de las Casas
III
Avanzando en las tierras de Chile
IV
Surgen hombres
V
Toqui en Caupolicán  酋長カウポリカン
VI
La guerra patria 祖国戦争
VII
El empalado
VIII
Lautaro (1550) ラウターロ
IX
Educación del cacique
X
Lautaro entre los invasores
XI
Lautaro contra el centauro (1554)
XII
El corazón de Pedro de Valdivia ペドロ・ヴァルディヴィアの心臓
XIII
La dilatada guerra
XIV
(Intermedio)
La colonia cubre nuestras tierras (1)
XV
Las haciendas (2)
XVI
Los nuevos propietarios (3)
XVII
Comuneros del Socorro (1781)  ソコッロの蜂起者たち
XVIII
Tupac Amaru (1781)
XIX
América insurrecta (1800)
XX
Bernardo O’Higgins Riquelme
XXI
San Martín (1810)
XXII
Mina (1817)
XXIII
Miranda muere en la niebla (1816)
XXIV
José Miguel Carrera (1810)   
XXV
Manuel Rodríguez  マニュエル・ロドリゲス
XXVI
Artigas
XXVII
Guayaquil (1822)
XXVIII
Sucre
Las banderas
XXIX
Castro Alves del Brasil
Toussaint l’Ouverture
XXXI
Morazán (1842)
XXXII
Viaje por la noche de Juárez  
XXXIII
El viento sobre Lincoln
XXXIV
Martí (1890)
XXXV
Balmaceda de Chile (1891)
XXXVI
Emiliano Zapata con música de Tata Nacho
XXXVII
Sandino (1926)
XXXVIII
(1)
Hacia Recabarren
(2)
El cobre
(3)
La noche en Chuquicamata
(4)
Los chilenos
(5)
El héroe
(6)
Oficios
(7)
El desierto
(8)
(Nocturno)
(9)
El páramo

XXXIX
Recabarren (1921) レカバーレン
Envío (1949)
Padre de Chile

XL
Prestes del Brasil (1949)

XLI
Dicho en Pacaembú (Brasil, 1945)

XLII
De nuevo los tiranos

XLIII
Llegará el día

- V -  La arena traicionada   裏切られた砂
Tal vez, tal vez el olvido sobrela tierra como una capa puede
Los verdugos   死刑執行
El doctor Francia 
Rosas (1829-1849)
Ecuador   エクアドル
García Moreno   ガルシア·モレノ
Los brujos de América  アメリカの魔術師
Estrada   エストラーダ
Ubico
Gómez   ゴメス
Machado   マチャド
Melgarejo   メルガレホ
Bolivia (22 de marzo de 1865)
Martínez (1932)
Las satrapías

II
Las oligarquías
Promulgación de la ley del embudo
Elección en Chimbarongo (1947)
La crema
Los poetas celestes 天上の詩人たち
Los explotadores オペレータ
Los siúticos
Los validos
Los abogados del dólar  ドルの弁護士
Diplomáticos (1948) 外交官
Los burdeles 売春宿
Procesión en Lima (1947) リマの行列(1947)
La Standard Oil Co.  スタンダード石油(株)
La anaconda Copper Mining Co. アナコンダ銅鉱山(株)
La United Fruit Co. ユナイテッドフルーツ株式会社
Las tierras y los hombres   土地と男性
Los mendigos  乞食
Los indios   インディアン
Los jueces   裁判官

III
Los muertos de la plaza (28 de enero 1946 Santiago de Chile) ラ・プラサの死者たち(1946年1月28日、サンティアゴ、チリ)
Las masacres   虐殺
Los hombres del nitrato   硝酸塩の男性
La muerte   死
Cómo nacen las banderas   どのようにして旗は生まれたか
Los llamo   コー​​ル
Los enemigos   敵
Están aqui   彼らはここにいる
Siempre   常に

IV
Crónica de 1948 (América)   1948のクロニクル(アメリカ)
Paraguay
Brasil
Cuba
Centro América
Puerto Rico
Grecia
Los tormentos
El traidor
Acuso
El pueblo victorioso

V
González Videla el traidor de Chile (Epílogo) 1949 De las antiguas

- VI -  América, no invoco tu nombre en vano  アメリカ、無駄に名前を呼び出すな
Desde arriba (1942)

II
Un asesino duerme  殺人者は眠る

III
En la costa  海岸で

IV
Invierno en el sur, a caballo

V
Los crímenes

VI
Juventud

VII
Los climas

VIII
Varadero en Cuba  キューバのバラデロ

IX
Los dictadores  独裁者

X
Centro-América  中央アメリカ

XI
Hambre en el sur  南の飢餓

XII
Patagonia  パタゴニア

XIII
Una rosa  バラ

XIV
Vida y muerte de una mariposa  バタフライの生と死

XV
El hombre enterrado en la Pampa  パンパに埋もれ男性

XVI
Obreros marítimos

XVII
Un río

XVIII
América  アメリカ

XIX
América no invoco tu nombre en vano

- VII - Canto General de Chile  チリの大いなる歌
Eternidad
Himno y regreso (1939)

II
Quiero volver al sur (1941)

III
Melancolía cerca de Orizaba (1942)

IV
Océano
Talabardera
Alfarería
Telares

VI
Inundaciones
Terremoto

VII
Atacama

VIII
Tocopilla

IX
Peumo
Quilas
Drimis Winterei


X
Zonas eriales

XI
Chercanes
Loica
Chucao

XII
Botánica

XIII
Araucaria

XIV
Tomás Lago
Rubén Azócar
Juvencio Valle
Diego Muñoz

XV
Jinete en la lluvia

XVI
Mares de Chile

XVII
Oda de invierno al río Mapocho


- VIII -   La tierra se llama Juan  土地はファンと呼ばれている
Cristóbal Miranda (Palero-Tocopilla)

II
Jesús Gutiérrez (Agrarista)

III
Luis Cortés (de Tocapilla)
Olegario Sepúlveda (Zapatero Talcahuano)

V
Arturo Carrión (Navegante, Iquique)

VI
Abraham Jesús Brito (Poeta popular)   エィブラハム・エイズス・ブリトー(民俗詩人)

VII
Antonino Bernales (Pescador, Colombia)

VIII
Margarita Naranjo (Salitrera «María Elena» Antofagasta)

IX
José Cruz Achachalla (Minero, Bolivia)

X
Eufrosino Martínez (Casa Verde, Chuquicamata)

XI
Juan Figueroa (Casa de Yodo «María Elena», Antofagasta)

XII
El maestro Huerta (De la mina «La Despreciada», Antofagasta)

XIII
Amador Cea (De Coronel, Chile, 1949)

XIV
Benilda Varela (Concepción, Ciudad Universitaria, Chile, 1949)

XV
Calero, trabajador del banano (Costa Rica, 1940)

XVI
Catástrofe en Sewell

XVII
La tierra se llama Juan

- IX -  Que despierte el leñador  木こりよ目覚めよ
Que despierte el leñador  木こりよ目覚めよ

- X -    El fugitivo  逃亡者
El fugitivo (1948)  逃亡者

- XI -   Las Flores de Punitaqui  プンタキの花
El valle de las piedras (1946)

II
Hermano Pablo

III
El hambre y la ira

IV
Les quitan la tierra

V
Hacia los minerales

VI
Las flores de Punitaqui

VII
El oro

VIII
El camino del oro

IX
Fui más allá del oro: entré en la huelga.

X
El poeta

XI
La muerte en el mundo

XII
El hombre

XIII
La huelga

XIV
El pueblo

XV
La letra

- XII -  Los ríos del canto   歌の河
Carta a Miguel Otero Silva. En Caracas (1948)

II
A Rafael Alberti (Puerto de Santa María, España) ラファエル·アルベルティ

III
A González Carbalho (en Río de la Plata)

IV
A Silvestre Revueltas, de México en su muerte (oratorio menor)

V
A Miguel Hernández asesinado en los presidios de España スペインの刑場で殺されたミゲル・エルナンデスへ

- XIII -  Coral del año nuevo para la patria en tinieblas  暗闇の祖国のための新年の合唱
Saludo (1949)

II
Los hombres de Pisagua

III
Los héroes

IV
González Videla

V
Yo no sufrí

VI
En este tiempo

VII
Antes me hablaron

VIII
Las voces de Chile

IX
Los mentirosos

X
Serán nombrados

XI
Los gusanos del bosque

XII
Patria te quieren repartir

XIII
Reciben órdenes contra Chile

XIV
Recuerdo el mar

XV
No hay perdón

XVI
Tú lucharás

XVII
Feliz año para mi patria en tinieblas

- XIV -  El gran océano  素晴らしい大洋
El gran Océano

II
Los nacimientos

III
Los peces y el ahogado

IV
Los hombres y las islas

V
Rapa Nui

VI
Los constructores de estatuas (Rapa Nui)

VII
La lluvia (Rapa Nui)

VIII
Los oceánicos

IX
Antártica

X
Los hijos de la costa

XI
La muerte

XII
La ola

XIII
Los puertos

XIV
Los navíos

XV
A una estatua de proa (Elegía)

XVI
El hombre en la nave

XVII
Los enigmas

XVIII
Las piedras de la orilla

XIX
Mollusca gongorina

XX
Las aves maltratadas

XXI
Leviathan

XXII
Phalacro-Corax

XXIII
No sólo el albatros

XXIV
La noche marina

- XV -  Yo soy   我が来歴
La frontera (1904) 辺境

II
El hondero (1919)

III
La casa 家

IV
Compañeros de viaje (1921)

V
La estudiante (1923)

VI
El viajero (1927)

VII
Lejos de aquí

VIII
Las máscaras de yeso

IX
El baile (1929)

X
La guerra (1936)

XI
El amor

XII
México (1940)

XIII
En los muros de México (1943)

XIV
El regreso (1944)

XV
La línea de madera

XVI
La bondad combatiente

XVII
Se reúne el acero (1945)

XVIII
El vino   ぶどう酒

XIX
Los frutos de la tierra

XX
La gran alegría 大きな悦び

XXI
La muerte 死

XXII
La vida

XXIII
Testamento (I) 遺言(1)

XXIV
Testamento (II)  遺言(2)

XXV
Disposiciones 手筈

XXVI
Voy a vivir (1949)

XXVII
A mi partido 私の党に

XXVIII
Aquí termino (1949)

 インカ

 アメリカ・インディオ文明のなかで、古代ペルーのインカ帝国の文明ほどに魅惑的で謎にみたものはない。当時、周期的に飢饉にみまわれる世界にあって、インカ帝国は、農業の発展、収穫物の貯蔵、消費の調節、広大な流通網の整備などによって、飢饉を知らない国であったという。

 南部は すばらしい黄金色だった
 天の戸口にある
 マチュ・ピチュの孤独な高みは
 油と歌声に みちみちていた
 人間は 高い山の
 大きな鳥たちの巣をこわし
 頂きにひらいた新しい土地で
 農民は とうもろこしの実をもいだ
 霜焼けのした指で

 ここに歌われている「人間」──インカ帝国の名もない「人間」は、神官でもなければ戦士でもなく、素朴な農民である。マチュ・ピチュのような山の高みで、とうもろこしを育て、「霜焼けの指」でとりいれをした農民である。

 山のテラスの段段畑のうえに
 高地のとうもろこしが芽を出した
 そして 火山の道を
 壷や神神が往き来した

 「火山の道」──インカ帝国の道路網は一万六千キロメートルにわたったといわれる。それはたんに火山の山腹を縫っていただけでなく、それ自体が火山の溶岩のように、山項から台地や谷間へと蛇行していた。とうもろこしを入れた重い壺を背負った運搬人たちが蟻の行列のようにつづいた。この行列こそが、飢餓の問題を解決したインカの栄光を物語っていたのだ……しかしインカの牧歌のなかにも、苦しみにみちた秘密がかくされていた。長詩『マチュ・ピチュの高み』がその手がかりとなる。

(『パブロ・ネルーダ』──『大いなる歌』)
 マヤ─チチェン・イッツア

 つづいてマヤ文明が歌われる。

 マヤ族よ きみたちは
 偉大な知識の樹を 切り倒した
 とうもろこしの部族のかぐわしい匂いのなかに
 研究と死との 構造が築かれた
 チチェンよ おまえのざわめきは
 密林の夜明けとともに 湧きあがった
 労働は次第に おまえの黄色い城砦のなかに
 蜂の巣穴の均斉(シムメトリー)をつくりだし
 思索は 台石の血をおびやかし
 くらやみの天空を探り
 医学をみちびきだし
 石のうえに記録をきざんだ
 
 ここには、マヤ文明の驚異的な発展がうたわれている。九世紀頃に築かれたといわれるチチェン・イッツアは「マヤのメッカ」と呼ばれる首都で、数学、天文学、医学などの知的活動を始めたことで知られる。こんにち、このチチェン・イッツアの大遺跡は、メキシコ・ユカタン半島の緑のジャングルのなかに埋もれながら聳えている。目のくらむような傾斜の急な階段をもってそそり立ったピラミッド神殿。崩れかけながら、ジャングルのうえにそびえている天文台。神秘をひめた「いけにえの泉」。・・・
 ネルーダがチチェン・イッツアに呼びかけたこの詩の最初のイメージ──「おまえのざわめきは/密林の夜明けとともに 湧きあがった」というのは意味深い。それは人類の知的活動の夜明けが、密林の夜明けと同時代であった、という意味である。
 「いけにえの泉」が示すように、マヤ文明にもまた血なまぐさい迷信があったことをネルーダは知っている。しかしネルーダはマヤ文明を特徴づけるヒュマニスム、知的探求、科学的前進を強調して、これを歌っているのだ。

(『パブロ・ネルーダ』──『大いなる歌』)
 アステカ

 第一章『地上のランプ』の「人間たち」という詩は、古代および中世の南アメリカの諸部族について書いている。そのなかでアステカ文明についてはこう歌われている。

 アステカの階段を
 目にもまばゆい 雉子の群のように
 神官たちが しずしずと降りてきた
 ・・・ 断末魔の呻きと風のなか
 石に石を積み重ねた 荘厳なピラミッドは
 威圧的なその体積のなかに
 犠牲(いけにえ)の心臓を 巴旦杏のように閉じこめた
 わめき声にも似た 雷鳴のなか
 血は 神聖な階段をしたたり落ちた

 ここには、アステカにおける宗教的儀式の豪奢なきらびやかさとピラミッド神殿の壮大さが歌われていると同時に、その専制的な権力の強大さと犠牲(いけにえ)を捧げる宗教的な残酷さがあばかれている。アステカ王国は盲目的な神権政治と血なまぐさい蒙昧主義のうえに成り立っていた。巨大な神殿をきずいた建築家たちのすばらしい芸術も、迷信による圧制を正当化することはできない。
 このアステカの圧制にたいして、ネルーダは、名もない多くの部族民たちのつつましやかで平和を日常生活を──その農耕や手仕事などを対置している。

 けれども もろもろの部族の人民は
 繊維を織り 収穫(とりいれ)のために精を出し
 色もまばゆい羽根を織り トルコ玉を磨き
 そして 織物の模様のなかに
 この世の光を 織り出した

 ここには、素朴な人民の活気と活力にみちた労働の姿が描かれている。そして彼らの作りだした物の美を──「この世の光」をうたっている。

(『パブロ・ネルーダ』──『大いなる歌』)