『現代詩人集』第4巻
大島博光
(深夜の通行人)
1 愛のために………………………………
2 飢ゑの歌……………………………………『蝋人形』
3 家もなく……………………………………『蝋人形』
4 白夜のなかに…………………………
5 悲惨……………………………………………『新領土』
6 悲歌……………………………………………
7 失はれた愛の歌……………………『新領土』
8 火の歌………………………………………
9 深夜の通行人…………………………『新領土』
10 植物……………………………………………
11 消えさりし泉の歌…………………『蝋人形』
12 夢みる耳……………………………………『蝋人形』
13 生命を変へる…………………………
*『現代詩人集』全6巻は1940年(昭和15年)に山雅房から刊行された詩人集。
第4巻は永田助太郎が編集し、春山行夫・近藤東・村野四郎・北園克衛・大島博光・永田助太郎の6名の詩を収録。詩誌『新領土』や『詩法』に参加したモダニズム系の詩人を集めている。
大島博光
(深夜の通行人)
1 愛のために………………………………
2 飢ゑの歌……………………………………『蝋人形』
3 家もなく……………………………………『蝋人形』
4 白夜のなかに…………………………
5 悲惨……………………………………………『新領土』
6 悲歌……………………………………………
7 失はれた愛の歌……………………『新領土』
8 火の歌………………………………………
9 深夜の通行人…………………………『新領土』
10 植物……………………………………………
11 消えさりし泉の歌…………………『蝋人形』
12 夢みる耳……………………………………『蝋人形』
13 生命を変へる…………………………
*『現代詩人集』全6巻は1940年(昭和15年)に山雅房から刊行された詩人集。
第4巻は永田助太郎が編集し、春山行夫・近藤東・村野四郎・北園克衛・大島博光・永田助太郎の6名の詩を収録。詩誌『新領土』や『詩法』に参加したモダニズム系の詩人を集めている。
新しき愛の天体
大島博光
涸れた夜から夜へ
君は濡れた星に眼覚めてゐた
しかも君の眼は地球を映してゐた
愛と憎悪の両半球を
君の熟ある呼吸は私を呼びさまし
君の燃える皮膚は私を温めた
しかも君の唇と私の唇の間
悪夢は針金のように縛ってゐた
喰ひしばった歯の間
君の愛は吃った
しかめた頼の皺の中に
君の言葉はかくされた
君の震え声は太陽を呼んだ
すべての地平線の夜の中に
君の震える手は星を指さした
すべての空の夜の中に
君の影 それは女の顔であるのか
君の影 それは真理の顔であるのか
君の踏みにじられた影の上
私の鋏のごとき腕を挙げる
君の截られたアキレスの上
私は旗のごとく立ち上る
(『新領土詩集』1941年)
大島博光
涸れた夜から夜へ
君は濡れた星に眼覚めてゐた
しかも君の眼は地球を映してゐた
愛と憎悪の両半球を
君の熟ある呼吸は私を呼びさまし
君の燃える皮膚は私を温めた
しかも君の唇と私の唇の間
悪夢は針金のように縛ってゐた
喰ひしばった歯の間
君の愛は吃った
しかめた頼の皺の中に
君の言葉はかくされた
君の震え声は太陽を呼んだ
すべての地平線の夜の中に
君の震える手は星を指さした
すべての空の夜の中に
君の影 それは女の顔であるのか
君の影 それは真理の顔であるのか
君の踏みにじられた影の上
私の鋏のごとき腕を挙げる
君の截られたアキレスの上
私は旗のごとく立ち上る
(『新領土詩集』1941年)
不幸の血管は透えては見えない
胸を蔽ふた夜の彼方
眼のない手は探る
埋められた岸を
蒼ざめた沼地の前
手のない唇を舐る
埋められた岸を
草を倒し石を蹴り
狼は壁を破つて跳びかかる
恐怖の背中へ
襲はれた肩の上
憎悪は首を垂れる
私の頬の上
悪夢の爪痕は残る
(掲載誌不詳)
<A5スクラップ詩集>
胸を蔽ふた夜の彼方
眼のない手は探る
埋められた岸を
蒼ざめた沼地の前
手のない唇を舐る
埋められた岸を
草を倒し石を蹴り
狼は壁を破つて跳びかかる
恐怖の背中へ
襲はれた肩の上
憎悪は首を垂れる
私の頬の上
悪夢の爪痕は残る
(掲載誌不詳)
<A5スクラップ詩集>
小宇宙のために
大島博光
地球よりも小さな脳髄には
憎悪よりも大きな穴を開けよ
地平線よりも狭い額には
沈默よりもはげしい唾を吐きかけよ
彼らは生きながら剥ぎとられてゐる
彼らは生きながら骸骨となつてゐる
彼らは夢みることなく眠つてゐる
彼らは夢みることなく眼醒めてゐる
彼らの盲目唖愚妄無智に愛撫され
彼らの惰弱倭小卑劣に抱かれて
彼らは空轉してゐる空虚のやうに
恐怖のやうに
彼らには麵麭よりも孤獨を
彼らには詩よりも殴打を
泥のなかへ彼らの顔を影を
鉛のなかへ彼らの言葉を眼を
(掲載誌不詳)
<A5スクラップ詩集>
大島博光
地球よりも小さな脳髄には
憎悪よりも大きな穴を開けよ
地平線よりも狭い額には
沈默よりもはげしい唾を吐きかけよ
彼らは生きながら剥ぎとられてゐる
彼らは生きながら骸骨となつてゐる
彼らは夢みることなく眠つてゐる
彼らは夢みることなく眼醒めてゐる
彼らの盲目唖愚妄無智に愛撫され
彼らの惰弱倭小卑劣に抱かれて
彼らは空轉してゐる空虚のやうに
恐怖のやうに
彼らには麵麭よりも孤獨を
彼らには詩よりも殴打を
泥のなかへ彼らの顔を影を
鉛のなかへ彼らの言葉を眼を
(掲載誌不詳)
<A5スクラップ詩集>