アポリネール

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千曲川

大島博光記念館へようこそ。
長野詩人会議が中心となって建設運動をすすめ、2008年7月にオープンしました。
愛と抵抗を歌った博光の詩の世界にふれていただけます。




お祭り

<齋藤磯雄他編『現代世界詩選』三笠書房 昭和30年>


パリジェンヌ

 演習
              ギョーム・アポリネール

戦線から うしろの村へ
四人の砲兵が 出かけて行った
かれらは みんな ほこりだらけ
頭のさきから 足のさきまで

かれらは眺めた ひろい野っ原
むかしのことなど 話しながら
ふと うしろを ふりかえったら
ちょうど 砲弾が せきばらい

四人とも みんな(一九)一六年度兵
語りあうのは 将来(さき)ではなく 昔のこと
こうして 死ぬ訓練をくりかえす
兵隊の地獄ぐらしは ながびいた
               (大島博光譯)

<齋藤磯雄他編『現代世界詩選』三笠書房 昭和30年>

池

  
           ギョーム・アポリネール

池のなか 生簀(いけす)のなかで
鯉よ おまえはなんと永生きしていることか
死ぬことを 忘れてしまつたのか
憂欝(メランコリー)の魚よ
               (大島博光譯)

<齋藤磯雄他編『現代世界詩選』三笠書房 昭和30年>


池

そのむかし ボヘミヤに
                        アポリネール/大島博光訳

そのむかし ボヘミヤに ひとりの詩人がいたそうな
ひとを恋うて泣き 太陽にむかって歌っていた
そのむかし 雲雀(アルーエット)伯爵夫人がいたそうな
たいへん瞞(だま)すのがうまかったので 詩人はのぼせて
自分の歌を忘れてしまい 夜も眠れなかった

ある日 彼女は言った「愛しているわ わたしの詩人よ」
だが 彼は彼女を信じずに 悲しげに微笑んだ
「囀(さえず)れ 雲雀よ」と彼は歌いながら出て行き
美しい 小さな森の奥に 身をかくした

ある晩 すてきな声で 囀(さえず)りながら
雲雀伯爵夫人が 森にやってきた
「おお わたしの詩人よ 愛しているわ そう言ったでしょ
永遠に愛しているわ とうとうあなたを見つけたわ!
さあ 恋いこがれる わたしの魂をいつまでも抱いて」

おお 禿鷹の無常な心をもった 残酷な雲雀よ
またしてもあなたは 信じやすい詩人を騙した
夕ぐれ すすり泣く 森の声がわたしにきこえる
伯爵夫人は出かけて行って ある日 もどってきた
「詩人さん わたしを愛して わたしはほかの人を 愛しているの」

そのむかし ボヘミヤに ひとりの詩人がいた
なぜか知らぬが かれは戦争に行った
愛されたいと思っても ひとを愛さぬがいい わたしを信じ給え
「伯爵夫人 愛しているよ」そう言いながら 彼は死んだ
そうして とても寒い明け方 恋の消え去るように
砲弾のとび去る音が わたしに聞こえた

愛の詩集
ミラボー橋
                アポリネール/大島博光訳

ミラボー橋の下 セーヌは流れ
    思えば
  われらの恋も 流れる
苦しみのあとには つねに悦びがやってきた

 夜のきて 鐘が鳴り
 日日は去り わたしは残る

手と手を取り 顔を向かい合わせていよう
   そのあいだにも
 つないだわれらの腕の橋の下
永遠の眼ざしの もの倦い波が流れ去る

恋も過ぎ去る この流れる水のように
   恋も過ぎ去る
 なんと 人生ののろいこと
そして希望の なんと激しいこと

手に手をとり 顔向き合わせていよう

(草稿)

*マリー・ローランサンとの恋に破れたアポリネールの傷心の詩。ミラボー橋のことをアポリネールの橋とよんでいます。

マリー(Marie)
                   アポリネール/大島博光訳

古い書物を脇にはさんで
セーヌの岸を わたしは歩いた
流れは わが苦しみにも似て
流れ流れて 涸れはしない
いつ 苦しみの日は終わるのやら

きみはそこで踊っていた 小さな娘よ
きみはそこでこれからも踊るだろうか 母親となって
跳びはねているのは 鯖だ
すべての鐘が鳴り出すだろう
いつ マリーよ きみはいつもどるのか

仮面は 声もなく
音楽は とても遠い
そうだ わたしはきみを愛したいのに
きみをほとんど愛せられぬ
わたしの不幸は こころよい

牝羊たちは 雪のなかへ出て行く
羊毛のちぢれ毛よ 銀色のちぢれ毛よ
兵隊たちが通り わたしにはもう
あの変わりやすい心は わたしのものではない
変わりやすい それからまた わたしが何を知ろうか

泡立つ海のように 波うつ
きみの髪は これからどこへ行くのやら
きみの髪ときみの手は どこへ行くのやら
われらの告白が またまき散らす
秋の木の葉よ

(草稿)
愛の歌      アポリネール

みたまえ 愛の歌の織りなす交響楽を
大むかしの 愛の歌がある
有名な恋人たちの激しいくちずけの音があり
神神に犯された 女たちの 愛の叫びがあり
飛行機を狙う砲門のように立った 伝説の英雄たちの男らしさがあり
英雄ジャソン(*1)の 意気揚々とした雄叫びがあり
白鳥の死の歌があり
そうして最初の太陽の光が 不動のメムノン(*2)に歌わせた 勝利の讃歌があり
略奪誘拐された時の サビーヌ(*3)の女たちのあげた叫びがある
また密林には 猫族たちの愛の叫びがあり
熱帯植物の幹(みき)のなかを駆けのぼる 陰にこもった樹液の音があり
諸国民の 怖るべき愛の命ずるところを行う 大砲のとどろく音があり
生命と美が誕生する 海の波がある

そこに この世のあらゆる愛の歌がある

訳注*1 ギリシャ神話によれば、ジャソンはコリシドを征服して金羊毛を奪い返した。
*2 メムノン──エチオピアの王で、トロワ戦争の応援に赴き、アキレスに滅ぼされる。後世、テーベにあるアメノフィス三世の二つの巨像のうちの一つはメムノンだとされている。伝説によれば、日の光があたると、かれの巨像はうつくしい音をたてたといわれる。
*3 サビーヌ──古代、中央イタリヤの山岳地帯に住んでいた種族で、ローマ人によって略奪された話は有名である。

*  *  *  *  *
ひとつの愛の詞華集」はフランスを中心に博光が愛誦した愛の詩を集めたもので、ページの割り振りから解説まで書いてまとめましたが、出版するには至りませんでした。アポリネールの「愛の歌」は冒頭にあります。